2014年、なぜロサンゼルスに進出したのか?
従来のハウスメーカーやディベロッパーなどとは違う「住宅総合生産企業」をうたう株式会社三栄建築設計は、2014年、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスに支店を開設した。国内での展開は首都圏が中心だが、なぜ、そこから太平洋を渡ることになったのか。そこには「先細りする内需が関係する」と同社ロサンゼルス支店の近藤晃弘氏はいう。
「日本において私たちは、戸建分譲事業や注文住宅請負事業を主事業としていて、お客様は初めて住宅を購入する一次取得者層が中心となっています。しかし、ご存じのとおり、日本では少子高齢化が進み、人口は減少しています。そこで、これからは海外も含めて投資なども扱う、総合的な不動産会社へと変化する必要があると考えました。そこで目をつけたのがアメリカだったのです」(近藤氏)
確かにアメリカの出生率は、2014年の時点で1.86人/年と、先進国のなかでも高い水準を誇っていた。またアメリカは、移民の国でもある。トランプ政権は移民を抑制する政策を打ち出しているが、それでも年間70万人の移民を受け入れ、安定した人口増加の要因となっている。
さらに2015年に総務省が発表した「世界の統計」によれば、アメリカは、総人口の中央年齢が38.2歳(日本は48.9歳)、人口増加率は年率約0.6~0.7%、経済は名目GDPベースで約4~5%の成長を続けている。
現在、人口と経済の双方がともに安定成長を続けている先進国は、世界を見渡してもそう多くはない。今後、アメリカでは、分譲住宅、賃貸住宅に対する需要が安定的に推移すると考えられている。
さらに、もう1つの理由が、会社としての資産防衛だった。
「世界で一番強い通貨は、基軸通貨でもあるドルです。ドルで資産を持っておくことは、資産防衛の観点でも、会社としてメリットがあると考え、アメリカ進出を決めたのです」(近藤氏)
日本にはないメリットを多く持つアメリカ。日本の25倍にも及ぶ広大な国土のなかで、同社は「カリフォルニア州ロサンゼルス」を選んだ。
「アメリカ西海岸に位置するカリフォルニア州の人口は約4,000万人、GDPは約2兆5,000億ドルと、ともに全米で最大です。都市圏で見ていくと、ロサンゼルスはニューヨークに次ぐ第2位の経済規模を誇り、人口は約400万人を数えます。さらに2014年ごろのロサンゼルスでは、ダウンタウンで再開発ラッシュが起きていて、中国、英国、サウジアラビアなど全世界から、投資マネーが大量に流入していました。将来性、成長性に注目した際、世界的にみても、ロサンゼルスは非常に魅力的なマーケットであると考えたのです」(近藤氏)
日本とは違う、ロサンゼルスならではの「不動産事情」
日本にはないメリットに目をつけた同社だったが、もちろん日本とアメリカ・ロサンゼルスでは勝手が違うようだ。
「日本では行政がしっかりしていて、普通なら法律に則り、必要に応じて許認可を取得すれば、工事が滞ることはほとんどありません。しかしロサンゼルスでは、そうはいかない場合が多いですね。
アメリカでは州によって不動産に関する法律が異なり、カリフォルニア州では全米の見本になるようなシステムが整備されていますが、法律を超えた独特の商慣習やルールが存在します。たとえば、あるエリアの建物を買収し、その建物を壊して2階建ての家を建てようと計画したとします。然るべき行政的な手続きをしていたとしても、誰かが『この建物は歴史的価値の高いものだ』といいはじめたら、それを保存しようという流れになり、開発にストップがかかります」(近藤氏)
このような場合、きちんと許認可を取得したことを盾にしても意味がなく、現地のルールに則り対応していかないと、事業はスムーズに進まないという。
「アメリカにはアメリカの文化があり、それは、不動産の世界でも同じことです。その文化をよく知っている人たち、それに馴染んでいる人たちがプロジェクトに参加することで、物事をスムーズに進めることができます。郷に入れば郷に従え。まさしくこの言葉の通りです。実際に、日本のやり方で戦おうとして撤退していった日本の不動産会社を見てきましたから」(近藤氏)
郷に入れば郷に従え――。これは海外不動産投資でも同様で、業者やエージェントがいかに現地に精通しているかが成敗のカギとなる。ロサンゼルスでの不動産投資を考えるのであれば、2014年に当地に進出し、さまざまな局面を乗り越えてきた同社は、有力なパートナー候補になるだろう。
次回は、三栄建築設計のアメリカでの事業展開について見ていく。