20〜40代女性が住みたい、住みやすい街が選ばれる
――この対談の冒頭において、早々と「数ある相続対策の中でも不動産投資は極めて有効」との結論が導かれました。ただし、失敗事例でも見てきたように、戦略を誤るとその結論には達しない恐れもあります。では、具体的にどのような物件に照準を定めるべきなのか? 前回、蜂谷社長はその答えについて、「20〜40代の女性をターゲットとした城南三区(世田谷・目黒・渋谷)の新築1棟マンション」と明言されました。
蜂谷 実際に当社が手掛けた物件の約8割は城南三区に集中していますし、入居者の約85%は20〜40代の女性です。我々の狙い通りの入居者を獲得できているのは、女性に好まれやすいデザイン性の高いマンションを開発していることに加えて、そういった方々にとって城南三区が住みたいと感じるエリアだからでしょう。
昨今はワーク・ライフ・バランスが重視されていますが、城南三区は都心に近いのに緑が多く、居心地がよくてオンとオフを切り替えやすいのも魅力になっているようです。シンプルに城南三区は住みやすい街が多い。また、意外と厳しい建築制限が設けられているエリアなので、我々がつくるような1棟マンションが乱立しているわけでもありません。
荒巻 つまり、人気のエリアでありながら、競争はさほど激しくないということですね。よく蜂谷社長は御社自身のことを、「城南三区を中心に1棟マンションの企画から設計、施工、管理までをワンストップで手掛けているニッチな会社」と説明されていますが、なぜ競合他社は追随してこないのでしょうか?
蜂谷 決算説明会などでアナリストから質問されるたびに、「競合している会社は特にありません」とか、「似たようなビジネスを展開している会社も見当たりません」といった回答をしています。結果的に競合が出てこなかったのは、条件的に設計が難しい物件が多いことが一因かもしれません。その点、当社は社内に設計・施工部門を抱えており、例えば、戸建てでも狭すぎるとされる16坪のスペースに8階建てのマンションを建設するなど、ノウハウと実績の蓄積があります。
荒巻 形状がいびつな不整形地(正方形や長方形の区画になっていない土地)は建物の建築に制約が生じたり、売却時にも不利であったりすることから、相続税評価額をさらに引き下げられます。それだけ開発が難しいことも意味していますが、そういったハンデを乗り越えられる設計力も御社の強みということですね。
渋谷の再開発に伴い、将来的にも城南三区へ人々が流入
――足元では、城南三区が女性を中心に高く支持されていることはよく理解できました。もっとも、蜂谷社長がよくおっしゃるように、不動産投資は非常に長いスパンで取り組んでいくものです。さらに先々を展望したうえでも、城南三区のブランド力が衰えることはないといえるのでしょうか?
蜂谷 周知の通り、渋谷では非常に大掛かりな再開発が進められており、何棟もの巨大なオフィスビルが続々と完成する予定です。それに伴って、著名な企業がオフィスを移転してくれば、その従業員の方々も渋谷周辺エリアに引っ越してくることになります。こうした企業の誘致に伴う人の流入に加えて、人口動態的にもまだまだ城南三区の賃貸需要は拡大傾向が続くと見られています。
荒巻 一方で、不動産投資に対するニーズがいっそう高まっていくことも考えられますね。少子化に伴って日本の人口は今後も減少していきますが、高齢化が進むことで相続をはじめとする“終活”に関するニーズはむしろ拡大していくという珍しい現象が生じています。現時点で1年間当たり約130万人がお亡くなりになっていますが、20年後には160万人規模に達するといわれています。
そうなると、相続対策として不動産投資を検討する人がさらに増えても不思議はありません。相続を専門とする私たちとしても、こうした社会のニーズに応え、より多くのお客さまの役に立ちたいと思っています。
蜂谷 ところで、実は城南三区内においても、微妙なエリア間によって土地の値段が違ってくるのをご存知でしょうか。その例を挙げれば、山手通りを挟んで目黒区青葉台と目黒区大橋という地域が隣り合わせているのですが、都心からの距離はほとんど変わらないにもかかわらず、それぞれの土地の値段に格差が見られます。
どうやら地名に対するブランド的なイメージがあるようで、最寄り駅からの距離はさほど変わらなくても、青葉台の地名がついたほうが200万円程度も土地の値段が高かったりするのです。
荒巻 土地の取得価格がそこまで違っていれば、利回りにも影響を及ぼすことになりますね。私たち税理士はそこまで不動産に詳しいわけではありませんから、お客さまに対してより耳寄りな情報をお伝えしづらいのが悩ましいところですね。
蜂谷 いえ、不動産業界の人間でもわからないことだらけですよ。我々のところには毎月膨大な数の土地情報が入ってきますが、たとえば最寄り駅が同じで坪単価、容積率とも同一のエリアでありながら、一方は5階建てを建設できるのに、もう一方は3階建てが限界だったりするわけです。
また、同じ沿線内でも物件を建てられるエリアと建てられないエリアがあります。東急東横線には中目黒や自由が丘といった人気のエリアが多いのですが、実はマンションをほとんど建てられない一帯でもあります。具体的には「第一種低層住居専用地域」に該当し、3階建てまでしか建設できないのです。エリアとともにこうした複合的な条件まで踏まえ、資産価値を計っていかなければなりません。我々はすべての条件をクリアしたうえで、20〜40代の女性が住みたいと思う優良物件を創り出すことに努めています。
(続)