相続対策も含めた資産形成において有効といわれ、人気も高いのが「新築一棟マンション投資」である。しかし、さらなる少子高齢化が見込まれる国内市場で、「不動産投資」という手法自体が有効であり続けるのか、不安を感じるオーナーも多い。今後、不動産投資による資産形成を盤石に進めるためには何が必要になってくるのか? 本連載では、取り扱い件数4000件超の“相続専門”税理士でもある税理士法人チェスター代表・荒巻善宏氏と、200棟以上の新築一棟マンションを手掛けてきた株式会社フェイスネットワーク代表取締役社長・蜂谷二郎氏に、「不動産投資による相続対策」を成功に導くためのプロセスについて伺う。第3回目のテーマは、「相続対策としての不動産投資」の具体的な失敗事例についてである。

「空室」を抱えて困っているオーナーは本当に多い

――ここまでの話をおさらいすると、まず不動産の実勢価格と相続税を計算する際に用いる評価額にはかい離があるということ。そして、後者のほうが低くなることから、資産の一部を不動産で所有しておけば相続税の節税につながるというメリットについてお伺いしました。ただし、いくつかのリスクがあるのも確かで、顧客本位ではない事業者が少なくない点にも注意すべきとのことでした。今回は、そういったポイントを見落として不動産投資で失敗してしまったケースについてお聞きできればと思います。

 

 

蜂谷 当社のお客さまにも、過去に別の事業者の提案で不動産投資を行ったものの、期待通りの成果を得られなかったという方々がたくさんいらっしゃいます。そして、当社の建てた物件で空室が出にくいことを体験し、「もっと早く出会っていればよかった」とおっしゃっていただいています。逆にいえば、空室を抱えて困っているマンションやアパートのオーナーが少なくないということですね。

 

税理士法人チェスター代表 税理士 荒巻善宏氏
税理士法人チェスター代表
税理士
荒巻善宏氏

荒巻 生前贈与や保険、養子縁組といった具合に多様な相続対策が存在しており、個々のお客さまの資産状況や家族構成などによって、打つべき手は当然異なってきます。ただ、不動産投資は、その中でも節税効果が非常に大きくて訴求しやすいことから、提案される機会も多いようです。

 

蜂谷 当社のお客さまを通じて、私も様々な失敗例を見てきましたが、首を傾げるような提案のものばかりですね。荒巻代表も、とんでもない事例を目の当たりにしてきたのではないでしょうか?

 

荒巻 そうですね。失敗例の多くに共通しているのは、安定的な賃貸需要が見込めない場所に建ててしまっているということです。特に悲惨なのは、80年代末のバブルの時代に地方の地主さまが相続税対策として、あえてローンを組んで所有地にアパートを建てているというケースでしょう。相続税は節税できたかもしれませんが、なかなか空室が埋まらず、期待していたほどの賃料収入が得られず、借金ばかりが残っている現状です。

 

蜂谷 ローンの返済に充てるつもりだった家賃収入がほとんど入ってこなくて、キャッシュフローがまったく回っていないということですね。北関東エリアなどの地方都市や首都圏郊外などでよく見かける物件です。

 

荒巻 えてして、その状況が「まずい」ということに気づくのは、相続を迎えてご子息たちの代になってからが多い。建ててから10年以内の築浅ならまだしも、20年や30年といった歳月が経過しているケースも多く、もはや売るに売れなくて途方に暮れているわけです。

 

蜂谷 そのような物件は、サブリース契約が結ばれているケースも多いですね。サブリースにすること自体、入居者が見つからないかもしれないから家賃を保証するわけであって、そのような場所にはそもそも建てるべきではない。あまり人が寄りつかない場所で流行らないかもしれないけれど、あえて飲食店をオープンするという話と変わりません。

 

しかも、「30年一括保証」と謳いながら、「賃料は2年ごとに見直す」との一文を盛り込んでいるケースもあります。本当は、サブリースがなくても賃貸経営が成り立つエリアに物件を建てるべきです。

 

 

「自分の土地を守りたい」という意識が強いゆえに…

――まさしく、八方塞がりの状況になっているということですね。現実的な話、そのような状況に陥っている場合には、どのような手を打てばいいのでしょう。その状態から、起死回生を図ることは可能なのでしょうか?

 

 

株式会社フェイスネットワーク 代表取締役社長 蜂谷二郎氏
株式会社フェイスネットワーク
代表取締役社長
蜂谷二郎氏

蜂谷 どうにかしてその物件を売って、別の資産に組み替えができるか否かですね。足元を見て安く買い叩かれる可能性は高いでしょうが、売却で得た資金で、ローンの残債をどこまで返済できるかにかかってきます。建ててから何十年も経ってご子息たちに代替わりしていれば、その土地を手放すことに強く抵抗することもないでしょう。

 

荒巻 昔ながらの地主さまの場合、「自分の土地を守りたい」という意識が強いので、どうしても慣れ親しんだ場所へ建ててしまうわけですね。

 

蜂谷 ご子息たちはそれではいけないと気づいていて、資産の組み替えを検討しているケースも増えています。実際、親御さまの代に建てた物件を手放して、賃貸需要のある都心に資産を移し替えるお客さまも増えています。本来は相続する前に組み替えるのが得策なのですが、荒巻代表がおっしゃるように、建てた当人は頑なであることが多い。

 

ご子息たちにしても、実の親に向かってそういった話を切り出しにくい。だから、まずはご子息たちが我々のところに相談に訪れ、次の面談では実際に親御さまを連れてこられるパターンは多いですね。我々が親御さまにも同じ説明をすると、ご理解いただける場合もあれば、その場では頷きながらもまったく考えを曲げない場合もあります。

 

荒巻 こうして節税効果にしか目を向けずに不動産投資で失敗した例もさることながら、何の対策も講じていない人も非常に多いことも悩ましいです。そのまま被相続人が認知症を患ってしまうと、手の打ちようがほぼありません。今は家族信託などでそういった事態に事前対応できますから、きちんと手を打っておいたほうがいい。相続対策を必要としているお客さまの約6割は、実際に手を打つ前に亡くなっているのが現実です。

 

蜂谷 相続は「死」が絡むテーマであるだけに、家族間で話しづらくて先送りにしてしまう風潮が日本にはあります。しかし、火急の用件ではなかったとしても、極めて大事な話です。本来、親御さまは我が子の幸せを一番に願っているはずですし、できるだけ早い段階で向き合っておくべきでしょう。我々も声を大にして、資産をお子さんやお孫さんの代へきちんと継承していくことを提案し続けなければと思っています。

 

 

 

(続)

取材・文/大西 洋平
※本インタビューは、2019年10月7日に収録したものです。