相続対策も含めた資産形成において有効といわれ、人気も高いのが「新築一棟マンション投資」である。しかし、さらなる少子高齢化が見込まれる国内市場で、「不動産投資」という手法自体が有効であり続けるのか、不安を感じるオーナーも多い。今後、不動産投資による資産形成を盤石に進めるためには何が必要になってくるのか? 本連載では、取り扱い件数4000件超の“相続専門”税理士でもある税理士法人チェスター代表・荒巻善宏氏と、200棟以上の新築一棟マンションを手掛けてきた株式会社フェイスネットワーク代表取締役社長・蜂谷二郎氏に、「不動産投資による相続対策」を成功に導くためのプロセスについて伺う。第5回目のテーマは、「不動産による相続対策に向いている物件」等についてである。

「取得価格と同等以上」で売却できる物件か?

――相続税の課税が強化されたのを機に、数多くの事業者が「節税対策」としての不動産投資を推奨しました。しかし、それらを購入したものの、建てた物件が「相続対策に不向き」だということに後から気がつき、不満を抱える結果となった人が少なくありません。単刀直入にうかがいますが、「相続対策に向いている」のはどのような物件でしょうか?

 

 

蜂谷 一般的に不動産は流動性が低く、すぐに希望の価格で売却するのは困難です。たとえば、1億円で買った物件を8000万円で売りたいと思っていても、7000万円でなければ買い手が見つからないといったケースはありがちです。気長に待ったとしても、8000万円で応じてくれる買い手が見つかる保証もありません。

 

しかし、空室がなかなか出ない優良物件なら事情は大きく異なり、自分が希望した以上の価格で売却することすら可能です。通常なら、築年数の経過とともに建物の価値は低下していくものです。これに対し、入居者に人気の優良物件は築年数にかかわらず価値がなかなか低下しないことから、相続税の節税対策のみならず、資産形成においても非常に適しているといえます。

 

税理士法人チェスター代表 税理士 荒巻善宏氏
税理士法人チェスター代表
税理士
荒巻善宏氏

荒巻 私が不動産投資の失敗例として挙げた事例(第3回『相続専門の税理士が見た…不動産投資の「失敗例」と原因とは?』参照)とは、まさしく正反対のパターンですね。失敗例とは、着実に賃貸需要を見込めるかどうかを検証しないまま、もともと所有していた土地に賃貸物件を建ててしまうというケースです。案の定、空室だらけで賃料収入をローンの返済に充てられないうえ、売るに売れないという状況に陥っていました。

 

こうした空室の発生は、実は相続税評価額を算出する際にも不利に働きます。所有している物件における総戸数のうち、相続発生時に入居者がいた部屋の割合(賃貸割合)をかけて計算するので、空室が多いと相続税評価額を下げる効果が薄れてしまうのです。したがって、相続税の節税においても満室続きの優良物件が有利だといえます。

 

蜂谷 かつての不動産投資では、キャピタルゲイン(転売益)を上げることが“出口戦略”となっていました。しかし、我々が念頭に置いているのは、将来的に何らかの事情によって、「不動産投資を続けられなくなった」という場面に遭遇した際の“出口戦略”です。もしも、その際に希望を大きく下回る価格で手放すはめになれば、生活に支障をきたす恐れもあり、資産を形成するつもりで不動産投資を始めたのに本末転倒の状況ともなりかねません。

 

やはり、取得した価格と同等、できれはそれ以上で売却できるのが理想で、つねに我々はそういった物件を開発するように心掛けています。だからこそ、20〜40代の女性をターゲットに、東京の城南三区(世田谷・目黒・渋谷)で、新築一棟マンションを建てることにこだわっているわけです。

 

 

実勢価格と相続税評価額のかい離が大きい物件に注目

――相続対策で求められるのは、「相続税の負担をできる限り軽くすること」とともに、「資産を保全しながら次の代へと継承していくこと」であるというのが、お二人の共通認識でしたね。ここまでの話に出てきた「資産価値が低下しにくい物件」とは後者の目的に結びつくものだと思われますが、前者の観点ではどのような条件が挙げられるのでしょうか?

 

 

荒巻 資産性があることを大前提としたうえで、税理士としての立場から申し上げれば、購入価格と相続税評価額の差が大きい物件が相続対策には有効ですね。いい換えれば、圧縮率(実勢価格よりも相続税評価額を引き下げられる割合)が高い物件に注目するということです。ただし、何度も申し上げますが、節税効果はあくまで副次的なものであり、不動産の資産性や投資としての側面をクリアしているのが前提としてあります。

 

実例を挙げれば、横浜市保土ケ谷区で築24年の物件が4億3700万円で売り出されていました。圧縮率は38%で、相続税評価額は約3億2500万円です。これに対し、それに近い販売価格で圧縮率が71.8%にまで達する新築物件が存在しています。

 

株式会社フェイスネットワーク 代表取締役社長 蜂谷二郎氏
株式会社フェイスネットワーク
代表取締役社長
蜂谷二郎氏

蜂谷 当社が開発した新築物件のことですね。圧縮率が71.8%だから、相続税評価額は約1億2000万円ということになります。

 

荒巻 相続税の節税効果だけに着眼した場合に、どちらを勧めるかといえば、当然ながら1億2000万円まで評価額を圧縮できる物件です。まずは不動産を購入するだけで現金で所有していたケースよりも40%も相続税評価額を下げられ、賃貸物件を建てるとさらに30%も減額できるわけですが、さらに個々の条件によって違いが出てきます。その結果、先ほどの例のように圧縮率にかなりの差が生じているわけです。ただしこの圧縮率だけを見て、億単位の不動産の購入を決めるのはよくないでしょう、そこは不動産の資産性等について専門家に助言を受けることが必要です。

 

蜂谷 しかも、この物件は圧縮率が高いだけにとどまらず、空室が出にくくて安定的に家賃収入をもたらすことが期待できます。おそらく、先々何か手放さなくてはいけない事情になったときでも、4億3000万円前後で売却することが可能でしょうね。概して都心の物件は実勢価格と相続税評価額が大きくかい離しているケースが多いのです。先に述べたとおり、特に狙い目は城南三区です。そろそろ、その理由について説明していくことにしましょう。

 

 

(続)

取材・文/大西 洋平
※本インタビューは、2019年10月7日に収録したものです。