「雇用保険」は、厚生労働省が管掌する強制保険制度です。労働者が失業した際の当面の生活の安定や再就職の支援などを目的としており、代表的な補償には失業手当があります。今回は、あまり詳しく知らない方も多いと思われる、雇用保険の補償内容について解説します。※本連載は、将来お金に困ることがないように、若いうちからできるライフプランニングに役立つ情報を紹介する「ライフプランnavi」の記事を抜粋、一部改変したものです。

労働者が受けられる「雇用保険」4つの種類

会社の規模に関わりなく、「1週間の労働時間が20時間以上」あり、「31日以上継続して雇用される見込みのある」労働者は原則として全員が被保険者です。

 

今回はその労働者の雇用保険の補償内容について解説します(①リゾートバイトなど季節労働者である短期雇用特例被保険者、②日雇い労働被保険者、③65歳以上を対象とした高年齢被保険者については今回解説しません。それ以外の一般被保険者の雇用保険内容のみをみていきます)。

 

雇用保険料は、労働者と事業主で負担し、給与(賞与)に保険料率をかけて算出します。保険料率は業種によって異なります。

出所:厚生労働省(平成30年度の雇用保険料率について)

 

たとえば、IT企業(一般の事業)勤務で、給与が月額45万円の正社員Aさんの雇用保険料の本人負担は、45万円の0.3%で1,350円です。

 

労働者が受けられる雇用保険には4つの種類があります。失業時などの生活安定を目的とした「求職者給付」、早期の再就職を促す「就職促進給付」、労働者の能力開発や中長期的なキャリア形成を支援する「教育訓練給付」、育児や介護など休業時の給与下落を補う「雇用継続給付」です。

 

後者2つは主に就業中の方を対象としているため、今回は、退職時や転職時に最も利用する「求職者給付」と「就職促進給付」をみていきます。

給与額や年齢によって異なる「基本手当日額」の上限

雇用保険制度のなかで最も一般的なのが、この「求職者給付」でしょう。求職者給付は、「基本手当」「技能習得手当」「寄宿手当」「傷病手当」の総称です。

 

・基本手当

 

失業手当とも呼ばれる「基本手当」は、会社の倒産で失職した方、転職をする目的で退職した方などが申請できます。すぐに再就職する意思がない、継続就業可能でない方は非対象です。受給資格は、離職日以前の2年間に雇用保険の加入期間が通算で12ヵ月以上あるか、失職理由が倒産・解雇などの場合は、離職日以前の1年間に6ヵ月以上の加入期間があることです。

 

基本手当の支給額は、それまでの給与額や年齢によって異なります。基本手当日額(雇用保険で受給できる1日当たりの金額)は、離職日までの6ヵ月間の賃金(賞与除く)の合計を180で割った数字(賃金日額)の50〜80%です。支給率は賃金日額と年齢によって異なります。詳細は厚生労働省のサイトで確認できます。

 

また、上限は次のとおりです。

 

基本手当日額の上限(平成30年8月1日現在)

 

・30歳未満 6,750円

・30歳以上45歳未満 7,495円

・45歳以上60歳未満 8,250円

・60歳以上65歳未満 7,083円

 

支給期間は、年齢や離職理由、雇用保険の加入期間などにより異なります。自己都合で離職した場合、90日~150日です。

出所:ハローワーク

 

先ほどのIT企業勤務Aさん(35)が基本手当を受給する場合を見てみましょう。

 

月給45万円(残業代と通勤手当込み)×6ヵ月÷180=1.5万円(賃金日額)

※賞与は計算対象外

 

上記の計算の結果、離職時のAさんの賃金日額は1万5,000円でしたが、「賃金日額」にも上限があります。この金額は「基本手当日額」の上限を超えることになるため、Aさんが受給できる1日当たりの基本手当は、実際のところ、7,495円となります。

 

また、今回自己都合退社したAさんの被保険者期間は13年あるとすると、受給可能期間は最大120日間です。期間いっぱい基本手当を受けた場合、総支給額は89万9,400円となります。

 

・技能習得手当

 

技能習得手当は、ハローワークが指定した公共就業訓練などの受講者が、基本手当に加えて日額500円(上限2万円)受給できる手当です。また、公共就業訓練施設への交通費は通所手当として最高4万2,500円まで支給されます。対象訓練には、プログラミング、溶接、建築など様々あり、新たな知識や技術を身につけながら手当を受けられる制度です。

 

・寄宿手当

 

上記の就業訓練を受けている方が、訓練を受けるために養っている家族と別居して寄宿しなくてはならない場合、寄宿手当として月額1万700円を受け取れます。支給対象でない日がある際は日割で減額されます。

 

・傷病手当

 

ハローワークで求職手続き後、基本手当の給付を待っている間に病気やケガをし、働けない状態が15日以上続く際は、傷病手当の申請が必要です。基本手当の受給には、すぐに再就職可能であることが要件であるため、傷病手当はその隙間をうめてくれる制度です。支給額は基本手当日額と同額です。健康保険の傷病手当とは別物なので注意してください。

「早く再就職」をするほど給付率が高くなる

就職促進給付は、「就業促進手当」「移転費」「求職活動支援費」の総称です。

 

就業促進手当の「再就職手当」は、早く再就職した人に対し、基本手当の支給残日数の60〜70%の額を支給する制度です。

 

支給額は、所定給付日数の支給残日数×給付率×基本手当日額で算出します。

 

支給残日数が3分の2以上ある場合は、基本手当の支給残日数の70%の額、3分の1以上の場合は60%の額が支給されます。早く再就職をするほど給付率が高くなる仕組みです。

 

さらに、この再就職手当の受給者が、再就職先で6ヵ月以上継続して雇用され、前職よりも賃金日額が低くなってしまった場合には、「就業促進定着手当」の給付もあります。

 

ハローワークの紹介した就職先や職業訓練を受けるために転居する際は、一定の要件を満たせば「移転費」として交通費や転居費がもらえます。遠方へ面接に行くなどした場合には交通費や宿泊費がもらえる制度(広域求職活動費)もあります。

 

基本手当日額は、毎年8月に見直しがあります。ただ、変更はあっても数十円規模です。

 

また、解雇や倒産などで失職した場合、離職票の提出後7日間の待機期間を経て手当が受給できますが、自己都合で退社した場合は、7日間プラス3ヵ月間もの待機期間があるので、再就職先が決まっていない際の退職は計画的に行いましょう。

 

管轄のハローワークで補償の対象者であるかを確認し、賢く雇用保険を利用しましょう。

 

 

※本連載は、『ライフプランnavi』の記事を抜粋、一部改変したものです。

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