妻のほうが約1.5倍も多く「隠し財産」を持っている
結婚している人は、どのくらい「へそくり」をしているのでしょうか。
明治安田生命が20〜79歳の既婚男女を対象に行った家計に関する調査(※2018年5月『「家計」に関するアンケート調査』)によると、夫のへそくりの平均額が50万3,078円であるのに対し、妻は74万1,228円と、妻のほうが約1.5倍も多く貯めていることが判明しました。
また、同調査のなかには、節税方法に関するアンケート結果もあり、男性はNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)を利用している割合が女性よりも多いことがわかります。男性はリスクをとる資産運用を好み、女性はリスクの少ない貯蓄、つまりへそくりをより好む傾向があるといえそうです。
妻のほうが多く隠し財産があるという実態が浮き彫りになりました。秘密の蓄えがあれば、いざという時にも安心なことは間違いありませんが、へそくりを貯める時には注意が必要です。
それは、パートナーの死別や離婚など、万が一の時に適用されるルールがあるからです。どういうことなのか、詳しく見ていきましょう。
お金を貯めて作ったへそくりは「名義預金」と呼ばれる
妻が貯めたへそくりの中身は、結婚前から貯めていたお金や自分で稼いだお金も含まれるでしょうが、夫から受け取った生活費をやりくりして余ったお金を貯めている場合もあるでしょう。
特に、専業主婦家庭であれば、その割合も増えてくるはずです。しかし、もともとは夫の稼ぎであるお金を、妻の口座に移す場合には注意が必要です。仮に夫から「生活費の余りは自由に使っていい」と伝えられていたとしても安心してはいけません。
なぜなら、万が一夫が亡くなった時には、相続税の対象となってしまうからです。
実は、夫が稼いできたお金を貯めて作ったへそくりは「名義預金」と呼ばれ、たとえ名義が妻になっていても、相続税を考える際には夫の財産とみなされてしまいます。実際に夫に不幸があった時、へそくりを相続財産として申告せず、あとから申告漏れを指摘されてしまうケースはしばしば発生するようです。
そうなると、修正申告が必要となり、故意に隠蔽(いんぺい)したわけではなくても、延滞税や過少申告加算税、重加算税といったペナルティが課されてしまいます。
夫婦間のやりとりであっても、「贈与税」は発生する
では、相続税の心配があるから、夫のお金でへそくりはしないほうがいいのでしょうか。
そもそも、名義預金の何が問題なのかというと、妻の口座にあるお金が、実際は夫の財産のままであるという点です。これを解決するためには、こっそり蓄えるのではなく、夫からもらったお金、つまり「贈与」があったとして、堂々と自分の財産として貯めておくことです。
ところが、ここでまた別の贈与税の問題が発生します。
通常、個人から財産を受け取った時には贈与税がかかると法律で定められています。夫婦間であっても例外ではありません。ただし、生活費に関してはその性質上、日常生活を送るために必要な範囲であれば贈与税はかからないことになっています。
また、現金であっても年間110万円までの贈与は課税されないという基礎控除が認められています。夫から生活費をもらって妻が家計管理をしている場合であれば、実際にかかった生活費には贈与税がかかりませんし、余ったお金も年間110万円までなら非課税で受け取れます。
この時に注意したいのが、贈与はお互いに「贈る」ことと「受け取る」ことの認識があってはじめて成立するという点です。もし、はっきりとした贈与の証拠がなく夫が他界してしまうと、名義預金が疑われ相続税が発生します。
それを防ぐためには、贈与契約書を作成しておくのが確実ですが、振込記録を残し、夫側と妻側それぞれの通帳に贈与の事実があったメモを残しておくだけでも効果はあるようです。要は、いざという時に金銭の移動の理由を説明できるようにしておくことが重要なのです。
贈与税や相続税は、個々のケースにより問題にならない場合もあるので一概にはいえませんが、無用な疑いをかけられないためには、対策を講じておくに越したことはありません。
離婚の場合、へそくりは財産分与の対象に
何十年と続く結婚生活では、死別のほかにも、「離婚」によってパートナーと離ればなれになってしまう可能性があります。離婚の場合、婚姻期間中に夫婦で築いた財産は「財産分与」で1/2に分割されるのが原則です。
パートナーに内緒で貯めていたへそくりも対象となります。「家計管理を頑張ったのは自分なのだから、へそくりも全部自分のものだ」と思いたい気持ちはわかりますが、夫婦共有の財産となるということを理解しておきましょう。
裏を返せば、夫名義の資産も、離婚する際には妻と折半されるということです。
男性と比べ、女性のほうがより堅実に貯蓄をしているといえます。しかし、これまで見てきたように、死別や離婚といった万が一の事態が発生した時には、自分名義の資産が手に入らなくなる落とし穴が存在します。ルールを知らなければ、頑張って貯めてきたへそくりを泣く泣く手放すことになりかねません。
そうならないよう、対策できるものは今のうちにしっかりと準備しておきましょう。