かつて「アジアの奇跡」と呼ばれた日本は…
日本には1954年から1973年まで、20年近くに渡って続いた高度経済成長期がありました。その期間の経済成長率(実質GDP成長率)は、年平均で9%以上にもなり、「アジアの奇跡」と呼ばれ、1955年に約8.8兆円だった名目GDPは、1973年には119.5兆円にも膨れ上がりました。
タイムマシンがあったなら、1954年の日本に戻り、都心の土地や一部上場企業の株を何社かまとめて買っておく…あとはただそれをずっと持っているだけで、今ごろは相当な大資産家になっているはずです。
ひるがえって、現在の日本では、政府や日銀がさまざまな政策を駆使しても、2%の成長目標を達成することができていません。このように、同じ国といっても、時代が変わればその経済成長ステージは、まったく違うものになってしまいます。
残念ながら、今後の日本で、かつてのような高度経済成長が訪れることは、まずありえないでしょう。それは、経済成長の基本的な必要要素である「人口ボーナス」の予測からわかることです。人口ボーナスとは、総人口に占める労働力人口の割合のことです。かつて日本で高度経済成長が実現したのも、基本的には人口ボーナスがあったためです。そしていま日本が成長できないのは、逆に労働力人口が減っているからです。
フィリピンの人口ボーナスはいつまで続く?
フィリピン株式市場が世界から注目されているのは、この「人口ボーナス」による成長促進効果が長期間続くと予測されているからです。
フィリピン国民の現在の平均年齢は24歳と若く(日本は46歳)、人口構成は若年層になればなるほど人口が増える綺麗なピラミッド型をしています。そして、フィリピンでは現在でも出生率が約3人と、アジア地域でも高水準で高止まりしています。これは、フィリピン人口の8割が人工中絶を禁じているカトリック教徒という宗教的な理由や、親世代を子世代、孫世代が経済的に支える社会構造であるため、子や孫が多いことを好む傾向によるものです。
そのため人口構成は長期間変わらず人口ボーナス期が長期化すると予測されているのです。ジェトロ(日本貿易振興機構)が2015年に出したレポートでは、フィリピンでは東南アジア諸国のなかでも最長の、2062年までの人口ボーナスが続くと述べられています。
この長期にわたる人口ボーナス期の継続は、長期の経済成長を下支えします。フィリピン経済の長期の成長を示した予測としては、たとえば、世界最大級の金融グループであるHSBCが2012年に出した『The World in 2050』があります。2050年の世界経済を予測したこのレポートでは、フィリピンのGDPは世界で16位(2017年は39位)にまで成長すると見られており、その成長率は世界ナンバー1だとされています。また、イギリスの調査機関PwCグループが2015年に出したレポート『The World in 2050』では、購買力平価ベースで見た実質GDPで見て、フィリピン経済は、2050年に世界19位になると予測されています。
このように、世界各国の調査機関において、フィリピン経済の長期成長は太鼓判を押されているのです。
また、足元においては、フィリピン政府は「2022年まで年率7~8%の経済成長」を政策目標として掲げています。一方、IMF(国際通貨基金)が発表している予測では、2019~2023年までのフィリピンの経済成長は6.7~7.0%と見込まれています。フィリピン政府の数値はやや過大だと思われますが、それでも、高成長であることは間違いありません。
20年、30年先の世界となると、不確実な要素も大きくなるので実際にその通りになるかどうか、正直わかりません。しかし、少なくともここ5~10年においては、世界トップレベルの実質成長率を誇る国である可能性は極めて高いでしょう。現政権が進めている、大規模インフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」も、着実に進行しています。
フィリピン証券取引所の総合指数採用銘柄には、コングロマリットやインフラ、不動産系の企業が多いですが、こういった業種に対しては、特に大きなポジティブ要素になるでしょう。
高成長が期待されるフィリピン…懸念されるリスクは?
最後に、フィリピン株式投資に際して、懸念されるいくつかの要素についても触れておきます。
1つは、為替(ペソ/円)の動向です。海外投資ではどうしても為替リスクは避けられません。ペソは2015年には2.6~2.7円程度まで高騰していましたが、その後緩やかに下落し、現在は2.0~2.1円程度で推移しています。
長期でみると、ペソはおおむね2円~2.7円程度のレンジで動いていること、また、一般的に通貨の強さは国の経済力に比例するのが原則であることを考え合わせると、現在はおおむね底値圏であり、今後ペソが長期的に下落していくことは考えにくい状況です。
為替の予測は難しいので、いつから反転するとはいえませんが、長期的に見れば、今後はペソ高傾向になるのではないでしょうか。そうなれば、それは日本の投資家にとっては、株式投資の利益に加えて、為替差益ももたらしてくれます。
もう1つの懸念要素が、政治リスクです。ドゥテルテ大統領が、麻薬撲滅のための超法規的措置を実施し、国際的な批判を浴びていることは周知の通りです。ただし、麻薬やそれと関連した汚職は、フィリピン経済にとって長い間の病巣でした。それを一掃しようというドゥテルテ大統領の政策は、国内では高い支持を得ています。また、長期的には経済健全化のためにも大いに資すると考えられます。
大統領の力が非常に強くなっているため、無理のある政策を突然実施してしまうという懸念もあります。
たとえば、BPMなどの外資系企業に適用されてきた税制優遇措置を抜本的に見直す税制改革法案が国会に提出されました。この法案が成立すれば、フィリピンに進出している外資系企業には大きなマイナスであり、長期的には外資の撤退からフィリピン国内雇用への悪影響が懸念されていました。
おそらくですが、それに気づいたドゥテルテ政権は、現在では法案への意欲をトーンダウンさせています。この件を見ても、経済政策に関しては意外とバランス感覚がよく、さほど失政への心配はいらないのではないかと思われますが、注意をしておく必要はあります。
このようなリスク面をはらみつつも、それを補ってあまりある発展の魅力が、フィリピンにはあります。そして、多くの日本人投資家がまだそれに十分に気づいていない今だからこそ、先駆けて始めることで大きな成果を得られる可能性が大きいのではないでしょうか。