既存の金融機関で始まりつつある「新金融スキーム」
宿輪 小倉社長の取り組まれているスキームは、これまでにない新しい資金調達の手段として興味深いですが、既存の金融機関でも新しい動きがみられるようです。日本銀行は最近のリポートで、金融機関が取引先企業に入って、中小企業に対して経営戦略の立案や市場開拓などのサポートを行うことを「新金融スキーム」と呼び、推奨しています。
これは「情報の非対称性」を解消することに対して、結果的に謝礼としての意味もあるのでしょうか、そういったケースでは貸出金利が高くなっているようです。
小倉 都下西部を地盤とする西武信用金庫さんがまさに、そういう取り組みをしています。取引先に対して、中小企業診断士などのコンサルタントや、弁護士・税理士・公認会計士などの専門家を無料で派遣して、相談に応じているのです。相談件数は年間延べ2000回から3000回にも及ぶそうです。その結果、昨年は1970億円も貸し出しが伸び、しかも貸し倒れ率が低い。
人事評価では実力主義を徹底し、最も成績を上げている支店長は年収が5000万円ほどあるといいます。メガバンクでも支店長の年収は2000万円程度ではないでしょうか。人材の力を引き出すインセンティブの工夫が素晴らしいと思います。
大橋 金融機関の中にはいまだに、高齢者に対して首をかしげるような金融商品の紹介を行うケースもあるようです。
宿輪 一部ではそういうことがあるにしろ、日本の金融機関の価値のひとつは、事務処理をきちんと行い、悪いこともしないということです。例えば、ゆうちょ銀行の窓口業務を行う郵便局は全国に2万4000店ほどあります。その物的・人的資源を活用し、地域における各種行政サービスのワンストップ窓口に利用していくのは、新たな金融サービスのひとつの考え方でしょう。
これまでの「金融サービスの常識」は次々と時代遅れに
宿輪 最近、メガバンク3行が合計3万人以上もの大幅な人員削減計画を発表して注目されています。いずれもロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)と呼ばれる技術を導入し、事務作業を自動化するのが大きな理由です。
これからの金融サービスは、こうした先端技術による業務の効率化とそれによるコストダウンが進むでしょう。同時に、特に、案件別に対応する高度なソリューション・サービスもますます求められるしょう。それこそ電子記録債権やPOファイナンスなどだと考えています。
大橋 企業レベルでは、IoT(モノのインターネット)が進むとサプライチェーンの効率化が進み、在庫が減り、運転資金の減少を通じて金融機関の利益はますます減少しかねません。金融機関にとっても金利だけではない、新たな競争戦略が求められています。
小倉 社会や経済が変化していくスピードはどんどん速くなっています。そうした中で、過去3年分の決算書で融資判断するといった、これまでの金融サービスの常識はどんどん時代遅れになっています。不確実な未来を予測し、判断することは人間にしかできません。従来の伝統や常識に縛られず、お互い新しい金融サービスのあり方に注目していきたいですね。