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金融の機能のひとつ「リスク配分」の重要性とは?

仮想通貨、フィンテック・・・テクノロジーの進展とともに「金融」の世界も激動している。本連載では、金融とは本来、実体経済の効率化と活性化を図り、豊かな社会を実現するためのインフラであるということを前提に、証券化やデリバティブなどの金融スキームに詳しい一橋大学大学院の大橋和彦教授、金融インフラの根幹である決済機能の実務と理論に精通する帝京大学の宿輪純一教授をお招きし、Tranzax株式会社の小倉隆志社長とともに、新しい時代に「金融」が担う役割と意義について語っていただく。第3回目のテーマは金融の機能のひとつ「リスク配分」についてである。

ビジネスや人生に「リスク=不確実性」はつきもの

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科
教授 大橋和彦 氏
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授 大橋和彦 氏

大橋 「金融」という言葉は、一般的にはお金の融通、つまり資金調達や投融資といった意味で使われています。しかし、もうひとつ「金融」には重要な機能があります。それは、社会におけるリスクの配分です。

 

例えば、CAT(Catastrophe)債券という金融商品があります。これは、地震や台風によって損害が発生した場合に元本を減額する等の方法で、被害を受けた発行者が金銭的な補償を受けられる保険のような役割を果たす債券です。

 

CAT債券が初めて発行されたのは1990年代ですが、気候変動に伴う大規模自然災害の発生の増加が見込まれるなか、そのリスクを証券取引によって配分する仕組みとして再び注目を浴びています。こうしたリスク配分のために考案されたのが、証券化やデリバティブ(※1)という手法です。

 

一般に「リスク」とは、危険とか損害を被る可能性として理解されていますが、金融の世界では「不確実性」のことです。予め想定された以上の損失を被る場合をダウンサイドリスク、想定以上の収益を得られる場合をアップサイドリスクといいます。ところが、日本人はリスクと聞いただけで拒否反応を示す人が多い。そのため、証券化やデリバティブというと、「なんだか怪しい金儲けの手段」くらいにしか思われていません。

 

帝京大学 経済学部
教授 宿輪純一 氏
帝京大学 経済学部 教授 宿輪純一 氏

宿輪 私は大学の授業でよく、資本主義の黎明期にあたる14世紀のイタリア経済を紹介しています。当時、リスクというのはいまでいうベンチャーに近いイメージで、ポジティブな捉え方がされていました。

 

それに対して、日本人はリスクをとらないかわりに損をした経験も少ない。そして、小さい頃から損をしてはいけないという教育を受けている。これでは「リスクの配分」といわれてもピンとこないのは無理もありません。

 

大橋 ビジネスにしろ人生にしろ、リスク=不確実性はつきものです。それをどう判断し、誰がどのように分担するのか。そう考えれば、証券化やデリバティブが役に立つ場面は今後、ますます増えてくると思います。

 

「理論と現実」をどうつなぐか?

宿輪 ただ、一般の人のみならず専門家でも、特に金融テクノロジーというと理論や数式の世界のことというイメージが強いようです。これも大学の授業で言っているのですが、新しい金融理論の数式をつくったとたん、その式の中に組み込まれている生身の人間がどのように考え、行動するのかが忘れられてしまうことがあります。

 

資金を貸すのも借りるのも、キャッシュフローを生み出すのも、すべて生身の人間です。その感覚をなくすと危ないように思います。

 

大橋 考案者がノーベル経済学賞を受賞した、ブラック・ショールズ式という有名な数式があります。オプション価格算出のための理論式で、金融工学の先駆けとなり、いまでも、簡便なのでとりあえず見てみる式として広く利用されています。

 

ただ、ブラック・ショールズ式の考案者を含む研究者が加わっていたアメリカのヘッジファンドLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)は、1997年のアジア通貨危機とそれに続くロシア財政危機で巨額の損失を出し、破たんしました。理論と現実をどうつなぐかは、常に課題です。

 

Tranzax株式会社 代表取締役社長 小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏

小倉 金融における理論面の研究は非常に重要です。そのことで新しいスキームや手法が生み出されます。わが社が提供している電子記録債権(※2)を利用した各種金融サービスも、電子記録債権という日本独自の新しい債権理論と制度にもとづいて、資金調達およびリスク配分を行うものにほかなりません。

 

電子記録債権は金融の新たなプラットフォームであり、それをどう活用するかはまだまだ発展途上です。そういう意味で当社は、理論と現実をつなぐためのチャレンジを続けています。

 

※1 証券化やデリバティブ
証券化とは、不動産や売掛債権など保有する資産が生むキャッシュフローを裏付けに有価証券を発行すること。資産そのものの信用力に基づいて有価証券を発行するため、優良な資産であれば資産の保有者の信用力より低いコストでの資金調達が可能となる。

 

デリバティブとは、先物取引、オプション取引、スワップ取引といった金融派生商品のこと。もともとは通貨、債券、株式、金などの現物市場における取引のリスクをヘッジするために開発された。最近では冷夏、暖冬などの気候変動による損失を補償する天候デリバティブなども登場している。いずれも、資産の流動性アップや現物市場のリスクヘッジといった金融取引の利便性向上を目的としているが、一方でそれ自体が投資対象となり、金融危機の原因になったとも指摘されている。

 

※2 電子記録債権
2008年12月に施行された電子記録債権法に基づき、新しい金融債権の一種として創設された。電子記録債権の成立や譲渡には、指名債権などと同じように当事者による意思表示があることに加え、国から指定を受けた電子債権記録機関に請求して、磁気ディスクなどの記録原簿にデータが書き込まれることが必要とされる。債権の存在や帰属の確認が容易で、一般的な指名債権のような二重譲渡のリスクがない。また、電子データを利用するため非常に多くの情報を記録できる。

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授

1963年生まれ。1986年一橋大学経済学部卒業。1986年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、経済学修士取得。1993年MITスローン経営大学院博士課程修了、経営学(ファイナンス)Ph.D.取得。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(金融戦略部門)教授、日本ファイナンス学会会長(2008年~2010年)。

著者紹介

帝京大学 経済学部経済学科 教授

博士(経済学)。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。4月より現職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、4月で11周年、開催は220回を超え、会員は1万2千人を超えた。プロの映画評論家としても活躍中。著作は『通貨経済入門(第2版)』(日本経済新聞社)、『決済インフラ入門』(東洋経済新報社)などはじめ他多数。

著者紹介

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介

連載中小企業の未来を変えるイノベーション~新しい時代に「金融」が担う役割とは?

取材・文/古井一匡 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年1月29日に収録したものです。

企業のためのフィンテック入門

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小倉 隆志

幻冬舎メディアコンサルティング

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