金融サービスを低コストで提供する「金融包摂」
大橋 いま、世界的な金融の大きなトレンドとしては、速度よりも広がりが重要になっていると思います。典型がいわゆる「金融包摂(financial inclusion)」です。金融包摂とは、新興国の貧困層に、振り込みや融資など各種金融サービスにアクセスできる機会を提供し、貧困の解消を目指す動きです。
世界規模で見ると、基本的な金融サービスを利用できない成人がおよそ25億人いるとの推計があります。フィンテックを活用した金融サービスのイノベーションが最も活発化している分野です。
小倉 銀行制度が未整備の新興国で、携帯電話とインターネット技術を使って金融サービスを一気に普及させるというのは、フィンテックならではですね。
宿輪 歴史的に金融サービスは、金融機関のネットワークが張り巡らされることで多くの人が享受できるようになります。金融機関の支店、そこにいるスタッフ、そして情報通信網が不可欠です。それに対して現代の「金融包摂」では、建物や人員などは必ずしも必要ではなく、低コストでサービス提供できることが最大のポイントです。
小倉 ただ、日本の金融システムにもまだまだ遅れた部分があります。金融庁では、中小企業に対して銀行等の金融仲介の取組みが不十分ではないかとして、「日本型金融排除」の可能性を指摘しています。
中小企業の資金繰りを苦しめ続ける「日本型金融排除」
小倉
そもそも日本では中小企業の6割は赤字決算で、決算書重視の銀行からは借入れが基本的にできません。また、中小企業は売掛債権のファクタリングや手形割引において、不利な取引条件を金融機関から求められています。
大手上場企業がコマーシャルペーパーを発行すると現在、金利は0.01%程度でしょう。しかし、同じ会社に対する売掛債権を持つ中小企業が、一括ファクタリングにより現金化すると短期プライムレート程度の手数料を取られます。大手上場企業と中小企業には大きな金利差が生じているのです。
大橋 金利や手数料が高止まりしているということは、金融市場におけるアービトラージ(鞘取り)が働いていないからです。十分な競争がおこなわれていないからではないでしょうか。
小倉 その通りで、市場金利であるTIBOR(東京銀行間取引金利)と各銀行が融資の基準として設定している短期プライムレートとの格差は以前にくらべてむしろ拡大しています。当社の電子記録債権を活用した金融サービスは、日本でまだ残っていたそうした課題を解決しようとするものです。
宿輪
日本の金融市場の構造として、銀行に資金が集まり過ぎているといえます。それは銀行にとってもリスクであり、金融庁は銀行に対して取引先企業の事業内容や成長性を評価して融資を増やすよう求めています。いわゆる「事業性融資」です。
しかし、取引先企業の事業内容や成長性を評価するのはそう簡単なことではありません。多くの銀行の現場ではいまなお、本部が作成した取引先企業の格付けに応じて融資などの判断をしています。
金融庁も以前は、「貸し倒れをゼロにするように」と指導していました。融資をすれば一定の確率で不良債権が発生するのは当たり前ではあるのですが。
小倉 日本の金融機関のそういう体質はなかなか変わりません。そうであれば、特に中小企業に資金が流れる別の仕組みを用意すべきだと思います。
大橋 事業性評価による融資というのは本来、ベンチャーキャピタル(VC)などによるプライベートエクイティが担うべきものではないでしょうか。
小倉 アメリカでは確かにそうです。VCからベンチャーに資金が入り、ベンチャーの成長によってリターンを得るという仕組み(エコシステム)ができあがっています。
しかし、日本のVCの出資審査は、銀行の融資審査とほとんど変わりありません。利益や売上見通しにこだわり、赤字会社への出資に及び腰で、しかも各社横並びです。
それもまた、日本型金融排除の一例といえるでしょう。