金融サービスとしての「フィンテック」のメリットと課題

仮想通貨、フィンテック・・・テクノロジーの進展とともに「金融」の世界も激動している。本連載では、金融とは本来、実体経済の効率化と活性化を図り、豊かな社会を実現するためのインフラであるということを前提に、証券化やデリバティブなどの金融スキームに詳しい一橋大学大学院の大橋和彦教授、金融インフラの根幹である決済機能の実務と理論に精通する帝京大学の宿輪純一教授をお招きし、Tranzax株式会社の小倉隆志社長とともに、新しい時代に「金融」が担う役割と意義について語っていただく。第2回目のテーマは「フィンテック」のメリットと課題についてである。

利便性とセキュリティはトレードオフの関係

宿輪 そもそも、金融サービス構築の大前提は、真面目な人とそうでない人を見分けることです。そうしないと、いろいろ不都合なことが起こります。そのためには、手間もコストもかかります。利便性だけを追求するわけにはいかないのです。

 

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科
教授 大橋和彦 氏
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授 大橋和彦 氏

大橋 金融の基本は善人と悪人をまず見分けること、というのは言いえて妙ですね。利便性とセキュリティは本来、トレードオフの関係にあります。リスクとリターンがトレードオフの関係にあるのと同じです。

 

小倉 当社では以前、フィンテックについての調査研究の一環でクラウドファンディングを検討したことがあります。しかし、証券会社に確認してみたところ、「そんなことをしたらIPOができなくなる」と止められました。

 

要は、クラウドファンディングでは出資者のチェックがきちんとできないため、反社会的勢力が入り込む可能性を排除できないというのです。

 

帝京大学 経済学部
教授 宿輪純一 氏
帝京大学 経済学部 教授 宿輪純一 氏

宿輪 フィンテックのメリットのひとつとして、金融取引がスピーディーになるということがいわれます。しかし、そこには重要な前提があります。法的に問題のない、クリーンな取引であるということです。そういう取引がスピーディーになることは社会的にもメリットがあるでしょう。

 

しかし、金融取引の中にはマネーロンダリングなど不正なものが必ず入り込んできます。利便性を追求するということは取引のチェックが甘くなることと裏腹であり、個人や中小企業を対象にしたリテール取引では特に、スピーディーであることには慎重であるべきだと考えます。

 

金融サービスの速さの鍵はペーパレス化

宿輪 そもそも、日本の銀行決済システムは世界一です。欧米ではいまでも振り込みで2~3日かかることは珍しくありません。一方、日本では同じ金融機関の口座間ではほぼ即時、他行同士の間でも数秒で振り込みが完了します。

 

ranzax株式会社 代表取締役社長 小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏

小倉 金融サービスの速さでまず取り組むべきなのは、ペーパレス化です。私が証券会社にいた頃は、国債はすべて紙の債券で、毎月利札を切り取って銀行に持ち込んでいました。

 

小さな紙片ですから、なくさないように担当者が細心の注意を払って束ねていました。なお現在は、国債の金利は指定された口座に自動的に振り込まれるようになっています。

 

大橋 利札が必要となると、時間も労力も馬鹿になりませんね。

 

小倉 手形も同じです。日本ではいまだに売掛金の15%、30兆円くらい紙の手形の残高があります。決済されており、手形を振り出すほうも受け取る方も、かなりの手間とコストがかかっています。

 

国では現在、大企業と中小企業との間での取引では、基本的に手形をやめ、現金払いにするよう指導(※)しており、経済界全体の生産性向上のためにも当然のことでしょう。

 

※ 現金払いへの指導
2016年12月に中小企業庁長官と公正取引委員会事務総長の連名で「下請け代金の支払い手段について」という通達が出され、親事業者による下請代金の支払いについて、次のように求めている。ただし、強制力はない。

 

①下請代金の支払いはできる限り現金によること

 

②手形等により下請代金を支払う場合には、その現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないようにすること

 

③下請代金の支払についての手形等のサイトについては、繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然として、段階的に短縮に努めることとし、将来的には60日以内とするよう努めること

 

この通達と併せて、下請法の運用基準が厳格化され、また下請け中小企業振興法の振興基準も大幅に改正されている。

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授

1963年生まれ。1986年一橋大学経済学部卒業。1986年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、経済学修士取得。1993年MITスローン経営大学院博士課程修了、経営学(ファイナンス)Ph.D.取得。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(金融戦略部門)教授、日本ファイナンス学会会長(2008年~2010年)。

著者紹介

帝京大学 経済学部経済学科 教授

博士(経済学)。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。4月より現職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、4月で11周年、開催は220回を超え、会員は1万2千人を超えた。プロの映画評論家としても活躍中。著作は『通貨経済入門(第2版)』(日本経済新聞社)、『決済インフラ入門』(東洋経済新報社)などはじめ他多数。

著者紹介

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介

連載中小企業の未来を変えるイノベーション~新しい時代に「金融」が担う役割とは?

取材・文/古井一匡 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年1月29日に収録したものです。

企業のためのフィンテック入門

企業のためのフィンテック入門

小倉 隆志

幻冬舎メディアコンサルティング

圧倒的な「コスト削減」「業務効率化」「キャッシュフロー改善」を実現する最新技術とは? フィンテックは一時の流行の枠を超え、次のステージに入っているという見方が大勢を占める。 ビットコインのリスクなどマイナス要…