「営業が強くて経理の声は届かない」という企業も…
(前回の続きです)
――では、サプライチェーン・ファイナンスの導入をご提案されるうえで、ハードルの高さを感じることはありますか?
黒川 昨年末に下請関連法が改正されたことを受け、あらゆる企業が支払いサイトの短縮に取り組んでいるのは間違いありません。その点で言えば、弊社のサプライチェーン・ファイナンスに関心を寄せられている企業も多いでしょう。しかし、鶴田も話していたように、企業のカラーは本当にまちまちです。社内において「経理が強い」という企業もあれば、「営業が一方的に強くて経理の声は届かない」という企業もあります。
経理担当者がコスト削減のために前向きに検討されていても、業務フローの修正を通じて営業活動に支障が出かねないと判断されれば、サプライチェーン・ファイナンスの導入がストップしてしまうケースもあるわけです。また、さまざまな企業の方とお話ししていると、「手形を廃止するなんて考えられない」と言う方もいらっしゃいます。
複数の発注先の個々の関係によって、締日やサイトの問題などの業務の負荷が異なり、改善したくても忙しすぎてできないとおっしゃる方も多い。企業における決済業務は業界慣習やシステム上の問題など、さまざまな“壁”で囲われてしまっているので、改革が必要です。
――サプライチェーン・ファイナンスを導入することについて、不安を感じる企業があるのでしょうか?
兼松 発注企業とその取引先であるサプライヤーの双方にとってメリットがあるので、事業者間の調整については不安を感じている企業は多くありません。しかし、銀行との関係性について不安を漏らす企業は少し多い印象です。というのも、弊社のサプライチェーン・ファイナンスはSPCがサプライヤーの売掛債権を買い取ることで、早期資金化ニーズに応える仕組みです。
その債権を買い取るための資金を銀行から借り入れて賄うケースもありますが、発注企業の自己資金を原資にするケースもあります。また、発注企業に代わって、SPCが買掛金の支払業務を行うので、銀行の仕事が少なくなることを心配する会社もあります。
更なる中小企業支援サービス「POファイナンス」も登場
――Tranzaxのサプライチェーン・ファイナンスと銀行のサービスの関係はどうなっていくのでしょうか?
兼松 TranzaxはIT企業ですので、直接金融を提供することはありません。金融機関とは相互補完の関係です。これまでの商習慣である、決済までの時間が長いというものは、着実に変わってきています。流れとしては、日本を代表する自動車メーカーなどがサプライヤーに対する支払いサイトを大幅に短縮し、現金払いへと移行していく計画であると報道されています。
また更にフィンテックの進展で企業間の決済は大きく変わっていくと思います。弊社も新しいサービスとして発注段階で電子記録債権を発生させ、検収・納品前から更なる早期資金化を支援する「POファイナンス」を準備しています。このサービスは電子記録債権を銀行の担保に差し入れて借り入れるスキームになります。
POファイナンスでは納品前の状態でサプライヤーの資金ニーズに対応するため、銀行の協力が不可欠になります。すでに多くの銀行さんから協力を申し出て頂いており、早期の実現が期待されています。電子記録債権は、商取引を見える化できる新たなIT金融のプラットフォームです。今後も、金融機関と協調して、新たなサービスを展開していきます。