「業界の慣習」で合理化できないケースはどうする?
――(前回)10億円の支払いに対して1000万円のコスト削減効果が見込めるとのことですが、導入に際しては業務フローの変更等を通じてさまざまなコストや手間が発生するのでは?
鶴田 それを見積もるのは収支算出後のことです。サプライチェーン・ファイナンスを導入した場合には、事務処理がどのように変更され、社内システムにはどのような影響が出るかを洗い出していくわけです。先ほども述べたとおり、決済の業務フローは企業によって千差万別です。なかには、どうしても合理化できないフローもあるのです。
例えば、建設会社の場合は“相殺勘定”というものを持っていたりするんです。建設現場では①下請け業者が発注企業より部材を仕入ます。そして②完成後に工賃と部材代を発注企業へ請求します。最後に①仕入と②請求で相殺する、というわけです。
あらかじめ相殺して、部材代を差し引いた金額を請求すればいいようなものなのですが、実は下請の工務店としては売り上げ規模を高めることができるため都合がいい。このように、業界ならでは慣習や事情があって、合理化できない支払業務もあるのです。その点を踏まえて、どのように事務処理を変更すべきか検討していくわけです。
――その事務処理はどのように変わりますか?
澤田 通常、発注企業はサプライヤーから請求書を受け取ると、経理システム等に支払情報としてインプットします。現金振込の場合、発注企業はそこから所定フォーマットの振込データを出力し金融機関へ伝送することで支払いの指図を行っています。大きく変更されるのは、この振込データをSPCに送ってもらう点です。
――それほど大きな変更は伴わないと?
澤田 発注企業からにサプライヤー対する支払を現金振込からサプライチェーン・ファイナンスに変更する場合の事務処理に大きな変更はありませんが、場合によっては、事前に決済に係る規程・マニュアルの見直しや、会計処理(勘定科目の設定等)、システム対応が必要となることがあります。
手形による支払から変更する場合は、大きな変更を伴います。手形発行、印紙貼付、押印、保管、郵送事務等の事務処理がなくなります。事務処理の省力化といった観点から良い意味で大きな変更ですね。
SPCの介在で大幅に圧縮される「利息」
――サプライヤーが手形を銀行に持ち込んで割り引いてもらう際には1.5%以上の金利が取られると先ほど話されていましたが、SPCがサプライヤーの要望に応じて早期資金化をサポートする場合の金利は?
澤田 それは、サプライチェーン・ファイナンスを導入するにあたり、発注企業と条件設定を行うなかで、サプライヤーに対するサービスの概要として決めていきます。金利については、SPCがサプライヤーの要望に応じ早期資金化をサポートする際に必要となる資金を発注企業にて拠出いただける場合、1%程度となることが多いです。一方で、SPCが金融市場より調達する場合には、その分の金融コストが発生するため、1.2%~となりますが、手形を割り引いてもらう際に発生する金利よりは、大幅に圧縮されるのは間違いありません。
――細かい話になりますが、振込手数料はSPCが負担するのでしょうか?
鶴田 西日本では銀行の振込手数料をサプライヤーが負担するのが一般的ですが、東日本では発注企業が持つケースが多かったりもします。実は、この振込手数料の負担は小さくありません。同じ銀行間の振込でも300円以上かかる場合もありますし、銀行が異なる場合には700円程度かかります。そのため、一部の企業ではサプライヤーから一律で1000円の振込手数料を差し引いて代金を支払っているケースさえあります。
Tranzaxのサプライチェーン・ファイナンスを導入してSPC経由で代金を支払う場合には、どの銀行の口座であっても一律で低額となりますが、別途、電子記録債権の発生手数料が発生するため、それらのコストをどちらが負担するかを検討することになります。ただ、総じて多いのは発生手数料をサプライヤーが負担して、振込手数料はSPCが負担するケースです。サプライヤーからすれば、高いと1000円近くも振込手数料を取られていたので、発生手数料を負担するほうが安く済むわけです。