昨年の下請取引ルールの大改正に伴い、発注企業から受注企業(サプライヤー)への代金支払いについては「現金」が原則となった。これまで「手形」を利用してきた発注企業にとっては、支払いサイトの実質的な短縮が求められる格好となり、対応に苦慮するところも多数出てくるだろう。この問題を一気に解決する手段として、電子債権記録を活用した「サプライチェーン・ファイナンス」という仕組みが注目されている。提供しているのは、フィンテックベンチャーのTranzax株式会社。本企画では、サプライチェーン・ファイナンスの仕組みをおさらいするとともに、具体的な導入プロセスを解説する。第5回目は、サプライチェーン・ファイナンスの導入でメリットがある企業の特徴などを、同社常務取締役・鶴田厚志氏と法人営業部・兼松誠司氏、小林学氏にお話を伺った。

導入申し込みからサービス開始までは6か月程度

前回の続きです)

 

――サプライチェーン・ファイナンス導入までにいくつものステップがあることはよくわかりました。では、実際に導入申し込みからサービス開始までにどれくらいの時間を要するものなのでしょうか?

 

鶴田 だいたい6か月程度です。企業の経理部のみならず、システム部門や発注に関わる部署などさまざまなセクションの業務フローが変わる可能性があるため、その調整に多くの時間を要するのです。いくつもの部署に跨ってすり合わせを行う必要があるので、そのアポ取りだけでもなかなか大変です(笑)。さらに業務フローの変更に際して、新たなシステム開発が必要になるケースも多々ありますからね。逆にいえば、大きなフローの変更が発生しないケースでは、3か月程度でサプライチェーン・ファイナンスを始動できると考えています。

 

――では、サプライチェーン・ファイナンスを導入することで大きなメリットを得られやすい企業の共通点などはありますか?

 

Tranzax株式会社法人営業部 小林 学 氏
Tranzax株式会社法人営業部 小林 学 氏

小林 サプライヤーにとっては支払いサイトの短縮および早期資金化ニーズが発生した場合の利払い負担の圧縮というメリットがあり、発注企業には決済にかかるコストの圧縮というメリットがあります。そのため、発注企業の規模が大きく、取り引き社数が多いほど、大きな効果が生まれるのは間違いありません。肌感覚ですが、発注企業の売上規模が100億円を超えてくると目に見えて効果が現れます。

 

支払手形が月に100枚以上ある企業ならば、さらに効果的。印紙代や手形の管理コストなどが一掃されますので。一方で、サプライヤーの視点に立てば、支払いサイトが90日以上だった場合には、サプライチェーン・ファイナンスを導入することで最短20日程度での資金化ができるようになるので、大きなメリットが発生するでしょう。借り入れよりも現預金が多いキャッシュリッチの発注企業に導入する場合には、SPCの資金を発注企業が拠出するのが一般的です。

 

銀行から借り入れずに、売掛債権の買い取りが可能になるので、その際に発生するサプライヤーの利払い負担は0.8~1%。仮に最大の支払いサイトが90日だった企業のケースを考えると、「0.8~1%×90日÷365日」で、実際には0.2%程度の利払い負担です。100万円の売掛債権ならば、2000円割り引かれるだけ。こんな小さなコストで早期資金化ができるわけです。

 

建設業関連の事業者が導入に前向きな理由

――手形を銀行で割り引いてもらう際には3~5%の利払い負担が発生します。それと比較すれば、ごくごくわずかな負担になるということですね。

 

小林 そのため、建設業関連の事業者はサプライチェーン・ファイナンスの導入に非常に前向きな印象です。多くの工務店や職人さんに支えられている業界ですが、発注企業である大手の建設会社は研究開発投資も積極的に行っており、新しい技術やサービスを積極的に取り入れる傾向にあります。そのため、多少の業務フローの変更を伴うサプライチェーン・ファイナンスにも抵抗がありません。

 

もちろん、取引先の数が膨大にあるので、発注企業が得られるメリットも大きくなりやすい。一方で、2020年の東京五輪に向けて工務店や職人の確保が困難になってきているので、サプライチェーン・ファイナンスというサプライヤーの早期資金化を支援するサービスを導入することで、工務店を囲い込みたいというニーズもあるのです。

 

Tranzax株式会社法人営業部 兼松 誠司 氏
Tranzax株式会社法人営業部 兼松 誠司 氏

――そのような企業に対して、サプライチェーン・ファイナンスの導入をお勧めする際に気を付けている点はありますか?

 

兼松 私どもがサプライチェーン・ファイナンスの導入をお勧めするのは、発注企業に対してです。しかし、その際には「サプライヤーのために新たな低利資金調達手段を提供できるようになる」ということを強調させてもらっています。発注企業の利益だけでなく、「サプライヤーにも喜んでもらえる」という点が、導入決断を後押しするためです。

 

取材・文/田茂井治 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2017年7月11日に収録したものです。