昨年の下請取引ルールの大改正に伴い、発注企業から受注企業(サプライヤー)への代金支払いについては「現金」が原則となった。これまで「手形」を利用してきた発注企業にとっては、支払いサイトの実質的な短縮が求められる格好となり、対応に苦慮するところも多数出てくるだろう。この問題を一気に解決する手段として、電子債権記録を活用した「サプライチェーン・ファイナンス」という仕組みが注目されている。提供しているのは、フィンテックベンチャーのTranzax株式会社。本企画では、サプライチェーン・ファイナンスの仕組みをおさらいするとともに、具体的な導入プロセスを解説する。第4回目は、「サプライチェーン・ファイナンス」導入後のフォロー体制などについて、同社常務取締役・鶴田厚志氏と業務推進部・澤田史彦氏にお話を伺った。

より良好な関係が構築できる発注企業とサプライヤー

――実際にサプライチェーン・ファイナンスの運用を開始すると、企業活動にはどのような変化が生じるでしょうか?

 

澤田 発注企業は、買掛事務の業務効率化を図りながらも、サプライヤーの資金繰りをサポートすることが可能になるので、発注企業とサプライヤー間において良好な関係が構築できるのではないでしょうか。

 

また、サプライヤーにはPCよりインターネットを介して早期資金化の申込みを可能とするシステムを準備しておりますので、今まで資金繰りに費やしていた時間等から解放されます。これにより、本来の企業活動に従事でき、生産性向上につながるのではないでしょうか。そして、PCより容易に低利での資金調達が可能となるのでお金の心配からも解放されるのではないでしょうか。

 

――受注企業(サプライヤー)側にはどのような変化が生じますか?

 

鶴田 支払サイトが70日で、早期資金化を希望する場合には最短30日に短縮できるケースで説明させてもらいましょう。締日が月末とすると、8月末までに送付された請求書に対して、通常であれば11月10日に代金が支払われることになります。期日前支払いを希望する場合には、売掛債権をSPCに買い取ってもらうことによって、9月末までに資金化が可能になります。

 

この場合、発注企業側で請求書を債権明細データに落とし込み、Tranzaxに送付されると、数日で電子記録債権化されます。すると、期日前支払日の銀行3営業日前に、すべてのサプライヤーに対して「電子記録債権の発生・譲渡確認の通知」が行われるのです。そこで実際の請求額と相違がないか確認してもらう。この電子記録債権の発生・譲渡に関する確定通知が、その翌日に行われます。さらにその翌日には、期日前支払いを希望される企業に、支払額が通知され、支払い日にはその代金が振り込まれることになるわけです。

 

つまり、サプライヤー側の変更点は、その通知を受けて金額をチェックすることと、早期資金化を希望する際にはあらかじめTranzaxにその希望をお知らせ頂くことです。その希望により、通常の期日支払いを期日前支払いに変更することが可能です。また、澤田が申したように、今後サプライヤー向けのシステムにより、その対応スピードを早めたいと考えています。

 

万全を期す「安定稼働」のためのフォローアップ

――運用開始後のアフターフォローの態勢はどのようになっていますか?

 

Tranzax株式会社 業務推進部 澤田 史彦 氏
Tranzax株式会社 業務推進部 澤田 史彦 氏

澤田 サプライヤー向けの専用コールセンターを用意しているので、ご連絡頂ければ、すぐにフォローできる態勢を整えています。このコールセンターは、サプライチェーン・ファイナンス導入時における利用申込および契約手続から運用が開始されて取り引きが続く限り、発注企業の大切な取引先であるサプライヤーをフォローさせていただいております。「取引担当者が変わったので、登録情報を変更したい」「来月から期日前支払いに変更したい」など、サプライヤー様のさまざまな問い合わせに対応しております。

 

発注企業からは、サプライチェーン・ファイナンス導入時における利用申込および契約手続においてご負担が掛ることもなく、好評を得ております。一方で、発注企業に対しては、弊社の事務受託部、業務推進部や経営管理部また、弊社の子会社であるTranzax電子債権が一丸となって継続的にフォローしていきます。というのも、大企業になると、いくつもの事業部があり、グループ企業もある。支払手段もサイトもまちまち。

 

「サプライチェーン・ファイナンスの適用範囲を拡大することで、更なるコストダウンや業務の効率化が図れないか?」とのご相談を受け、段階的に導入を進めさせて頂くわけです。導入して、サービスが開始すれば、そこで終わりというものではないのです。決済は企業活動において、最も重要なインフラであり、安定稼働のためのフォローアップが不可欠なので、それに見合った態勢を整えています。

 

取材・文/田茂井治 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2017年7月11日に収録したものです。