※写真はイメージです。本文とは関係ありません。

昨年末の下請取引に関するルール改正を経て、下請事業者への支払いサイトの短縮が強く求められるようになってきた。大手賃貸業界でレオパレス21が先陣を切って、電子記録債権を利用した決済プラットフォーム事業を展開するTranzaxのサプライチェーン・ファイナンスを導入しようとしている。第4回目は、サプライチェーン・ファイナンスの導入による工務店(サプライヤー)側のメリットについて、レオパレス21の深山忠広副社長、芦村戦略企画部長とTranzax小倉隆志社長に伺った。

従来と比べて低コストで資金調達が可能

――前回は、導入に伴う工務店(サプライヤー)への説明などについて伺いました。実際にサプライチェーン・ファイナンスを導入すると、サプライヤーにはどれだけのメリットが生じると見積もっていますか?

 

芦村 これまで説明してきたとおり、弊社の場合、最大で70日の支払いサイトが2日に短縮されます。それも非常に低い金利で資金化ができるようになります。具体的にいうと、契約時と中間時に代金の一部を支払って、残りの代金を検収が済んでから70日後に支払うという契約を交わしていた工務店があるとします。その支払いが100万円だったとすると、「1%×70日÷365日」で0.2%の金利負担だけで資金を調達できるようになるわけです。売掛債権を担保に融資を受けたり、手形の割引だと1.5%以上の金利が取られるでしょう。それとは比べ物にならないほど低コストで資金調達できることは、サプライヤーにとって大きなメリットと考えています。

 

――そのうえ、導入コストはゼロ。

 

株式会社レオパレス21
マーケット開発統括部
戦略企画部長 芦村健人氏
株式会社レオパレス21 マーケット開発統括部
戦略企画部長 芦村健人氏

芦村 弊社のステークホルダーにまったく負担をかけずに導入できるというのは大きなメリットですね。さらに、ヒューマンエラーを防ぐ効果も期待できます。なぜなら、今も大半が発注書は紙面媒体です。社内の業務は電子契約、電子発注を進めていますが、どうしても一部のサプライヤーとのやり取りはFAX頼みだったりもするので、発注書を送信したはずなのに別のFAX通知と混ざってしまって、しっかりと受発注できていなかったというトラブルが少なからず起きるんです。

 

これは、弊社のなかで請負事業部や賃貸事業部、財務経理部門など、さまざまな部署で買掛事務の処理が分散していることにも一因があると考えています。ところが、Tranzaxさんのサプライチェーン・ファイナンスを導入すれば、その処理をSPCに一元化できる。分散して煩雑になっていた業務を1つにまとめることができるので、サプライヤーとの間で生じがちなヒューマンエラーも防ぐことができるのではと考えています。

 

工務店にとって重要な「資金繰り」の効率化

Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax株式会社代表取締役社長  小倉隆志 氏

小倉 少し脱線しますが、実は先日、私は鳶の職人さんを抱える業者の方に話を聞いたのですよ。そのときに面白い話を聞かせてもらったんです。普通の業界で言うところお給料の“随時払い”、つまり“前借り”をシステム化して導入している工務店も増えてきているというのです。それも面白いことに、前借りシステムを導入している工務店の職人の離職率は下がりやすいと。

 

要は、工務店の資金繰りがよくなって、職人さんの希望に応じてお給料が支払える仕組みが整うと、おのずと腕のいい職人も集まりやすくなるということ。だから、その業者の方に、職人から「今日まで働いた分の給料をちょうだい」と言われたら、自動的に給料を算出して振り込める仕組みをシステム化できないか?と相談されました(笑)。それほど、工務店にとって資金繰りの効率化は重要な問題なのです。

 

――サプライチェーン・ファインスの導入により、工務店の質も高まるという効果が期待できると?

 

株式会社レオパレス21      取締役副社長執行役員 深山忠広 氏
株式会社レオパレス21 取締役副社長執行役員
深山忠広 氏

深山 私もその話は初めて聞きましたが、その効果は大いに期待できるかもしれませんね。少なくとも、人手の確保は容易になるでしょう。人件費が上がっていることを考えれば、資金繰りがよくなるだけで、建設業界で働こうという若い方も増えるかもしれません。いまだ建設業界のお給料は製造業と比較して安いからです。

 

正直、ご高齢の方ばかりでは、現場は成り立ちません。先ほど小倉さんが言ったように、建設業界で働く29歳以下の方は全体の1割にも満たない状況ですが、このままでは業界全体が尻すぼみになってしまう可能性もあります。その一因が、長い支払いサイトと業界を支える工務店の資金効率の悪さにある可能性は十分あります。

 

工事が終わって120日後にしか満額受領できなければ、日々職人に支払うお給料の負担を少しでも減らそうと考えるのは当然のことです。1%という低利、支払いを最短2日で資金化できるサプライチェーン・ファイナンスは、工務店に若い活力を生む可能性も秘めているかもしれませんね。

 

(続)

 

取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年5月29日に収録したものです。