深刻な建設業界の人手不足
――サプライチェーン・ファイナンスの導入で、わずか0.2%の金利負担で2日後に資金化できるとのことですが、そんなに支払いサイトを大幅に短縮しなくてはならないほど、サプライヤーさんは厳しい状況にあるのでしょうか?
深山 多くのサプライヤーは、問題無く資金繰りをして経営していらっしゃいますが、2020年の東京オリンピックの影響もあって、建設業界の人手不足が深刻なのは確かです。年々人件費が上がっていくので、工務店が職人を確保するのが難しくなっているのは間違いありません。過去には東日本大震災後に、建物の基礎工事を担う型枠大工の日給が5万円にまで急騰したことがありましたが、東京オリンピック前の2019年にかけて同レベルにまで人件費が高騰していく可能性があります。
さらに、小倉さんが先ほど言っていたように、この業界には日払いの職人も少なくありません。弊社が工務店に発注をかけたら、すぐに工務店はさらに別の工務店などに発注をかけて職人を揃えて行きます。受注した直後から設計士などの人件費が発生し、着工してからは毎日、日払いで職人さんにお給料を渡さなければならなくなることも多いんです。その資金負担は非常に大きいと考えて間違いないでしょう。
小倉 建設業界の人手不足は国土交通省の統計データからも明らかになっていますね。建設投資がピークに達した1992年の同業界の就業者数は619万人で、業者の数は53万社もありました。ところが2015年には就業者数が500万人にまで落ち込んでいます。業者の数も47万社にまで減っている。それも2000年頃から急激に高齢化が進んで、今では建設業界就業者の約3割が55歳以上。29歳以下の割合は1割以下です。一方で、建設業界の売上高経常利益率を見ると全産業平均を下回ります。利益率の低い業界なので、人件費の高騰が重くのしかかってくるのです。
深山 高齢化が進んで後継者不足から工務店をたたんでしまう方も少なくないんです。だから、発注者である我々はスーパーゼネコンなどと競い合いながら、工務店を確保せざるをえない。この業界ではどうしても期末にかけて、工事がピークを迎えがちです。そのため、3月期末にかけておのずと職人に支払う人件費も高くなっていく。サービス業のように毎年ジワジワと上昇するわけではなく、1年間を通じても人件費が大きく変動するわけです。
芦村 大幅に支払いサイトを短縮できるサプライチェーン・ファイナンスは、サプライヤーの資金繰りを大幅に改善することができると考えています。実際、すでに何社かのサプライヤーに説明させてもらっていますが、概ね反応は良好です。
下請事業者への支払いは120日後が大半!?
――サプライチェーン・ファイナンスを導入すれば、サプライヤーさんを囲い込みやすくなるということですか?
深山 囲い込むというと聞こえが悪いのですが(笑)、他の建設業者との差別化にはなると考えています。というのも、まだまだ業界内では支払いサイトの短縮を図ろうという動きが少ないので、サプライヤーのサポートとなるスキームを先駆けて導入することによって、当社とサプライヤー間で良好な関係を構築できると考えています。
小倉 もともと建築・不動産業界は支払いサイトが長いんですよ。超大手企業でも120日が一般的ですし、自分たちで不動産を仕入れて家を建てて販売するパワービルダーも仕入れコストの負担が大きいので下請事業者への支払いは120日後というところが大半です。レオパレス21さんも出来払い制をとっているとのことでしたが、大手の建設会社だと契約時に着手金として1割、上棟時にさらに1割、そして物件ができ上り、さらに半年以上たってから残り8割の代金を支払うところもあると聞きました。
もっと悲惨な例ですと、大手メーカーの工場建設は、着手金もゼロで、完成時に100%代金支払いの「0-100」なんですよね。着手金などは一切なく、工場の建設が終わって半年ほど経ってから満額を一括OKで支払うのです。これは大手メーカーと大手建設会社間の支払いになりますが、そのしわ寄せが下請け業者にいっていることは間違いありません。
――なぜ、建設業界では支払いサイトの短縮が進んでいない?
深山 この業界の慣習のようなものがあるのでしょう。しかし、弊社がサプライチェーン・ファイナンスを取り入れることで、追随してくれる業者が出てきたらいいなとは思っています。先ほど、“差別化”と言いましたけど、業界全体で取り組んだほうが下請けの工務店も活性化し、回りまわって弊社のプラスになることも間違いありませんから。
(続)