(※写真はイメージです/PIXTA)
寝室も別々に。それでも変わらない家事の負担
実はカズエさんが夫との距離を置こうと考えたのは、今回が初めてではありません。半年ほど前には、寝室を別々にしました。
「夫は退職してから、夜遅くまでベッドで動画を見ているんです。イヤホンをしているときもありますが、画面の光も気になりますし、寝返りを打つたびに目が覚めてしまって」
翌朝も仕事があるカズエさんにとって、睡眠不足は深刻な問題でした。何度か注意しましたが、ヒデオさんは「眠くないんだから仕方ないだろう」と言うばかり。結局、カズエさんが別の部屋で寝ることにしました。
「寝室を分けたら、ぐっすり眠れるようになったんです。もっと早くそうすればよかったと思いました」
一方、家事の分担は夫の退職後もほとんど変わっていません。カズエさんがパートから帰宅すると、ヒデオさんはリビングでテレビを見ていることが多く、夕食の準備を始める様子はありません。
「夫は会社を辞めて時間があるのに、食事は相変わらず私任せ。『今日の夕飯は何?』と聞かれると、何とも言えない気持ちになります」
長年働いてきたのは夫だけではありません。カズエさんも仕事と家事を両立させてきました。
「夫は退職したら仕事から解放されたけれど、私はいつ家事から解放されるんでしょうね」
「一人で暮らしたほうが楽なのでは」
スーパーでの一件以来、カズエさんはできるだけパートの帰りに買い物を済ませ、休日も一人で外出するようになりました。ヒデオさんは「最近、一人で出かけてばかりだな」と不満そうですが、カズエさんには夫に合わせて行動する気持ちの余裕がありません。
「夫は私と一緒に過ごしたいんだと思います。でも、私にも自分の時間が必要なんです。夫が退職したからといって、私の生活まで全部夫に合わせる必要はないでしょう」
最近では、離婚した場合の生活費についても考え始めています。現在の住まいをどうするか、年金分割や財産分与でどの程度のお金を確保できるのか。具体的な試算はまだですが、自分の年金とパート収入、貯蓄があれば、一人で暮らすことも不可能ではないと考えています。
「今まで離婚なんて考えたこともなかったんです。でも、寝室を分けてみたら快適だった。買い物も一人のほうが楽。だったら、いっそ別々に暮らしたほうがいいんじゃないかって」
カズエさんはまだ夫に離婚の意思を伝えていません。ただ、以前のように夫婦で老後を過ごしたいという気持ちは薄れているそうです。
「夫は私がそんなことを考えているなんて、夢にも思っていないでしょうね」
退職後の夫婦生活に必要な「一人の時間」
内閣府「令和8年版高齢社会白書」によると、2025年の65~69歳の就業率は男性63.4%、女性46.1%でした。高齢期も仕事を続ける人は少なくなく、夫婦で生活リズムが異なることも珍しくありません。また、総務省「令和3年社会生活基本調査」では、家事関連時間の男女差は縮小傾向にあるものの、依然として1日平均2時間33分の開きがあります。
夫が定年退職して自宅で過ごす時間が増えても、家事の分担が変わらなければ、妻の負担が軽くなるとは限りません
今回の事例では、ヒデオさんは妻と過ごす時間が増えたことを、夫婦の親密さの表れと考えていたのかもしれません。しかし、カズエさんが求めていたのは、夫と一緒に過ごす時間よりも、自分のペースで生活できる時間でした。
定年退職は、仕事から解放されるだけでなく、夫婦の生活を再構築する機会でもあります。長年連れ添った夫婦であっても、一緒に過ごしたい時間や必要な距離感は同じとは限りません。退職後の生活を考えるうえでは、家事の分担だけでなく、それぞれが自分の時間をどう確保するかについても、話し合う必要があるのではないでしょうか。
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