多額の学費を工面して大学へ送り出した我が子が、卒業直前に「就職しない」と言い出したら――。安定した人生を歩んでほしいと願う親の切実な願いと、自らの可能性を信じる子どもの意志。両者が激しく衝突したとき、家族はどう向き合うべきでしょうか。教育費への葛藤と進路のギャップから、親子のあり方を考えていきます。
「えっ…俺、就職なんてしないよ。」〈学費年150万円〉一流私大に通う長男の衝撃発言に、〈月収55万円〉48歳父が激怒。一触即発の雰囲気を変えた「妻の一言」 ※写真はイメージです/PIXTA

一触即発の父親に、妻が投げかけた意外な一言

そのとき、それまで黙って聞いていた美穂さんが口を開きました。

 

「大学はいい会社に入るためだけに行くところじゃないって、翔に言っていたじゃない」

 

誠さんは返す言葉に詰まりました。実は、翔さんが大学進学を希望した際、誠さん自身が「大学ではいろいろなことを学んで、自分のやりたいことを見つけてほしい」と話していたのです。

 

偏差値の高い大学に進学できたことを喜び、息子の可能性に期待していました。しかし、いざ卒業が近づくと、いつの間にか「有名大学を卒業するのだから、安定した会社に就職するはずだ」と考えるようになっていました。

 

「もちろん、何の計画もなく海外に行くのは反対。でも、最初から否定するのは違うんじゃない?」

 

誠さんも、息子の関心そのものを否定したいわけではありません。ただ、収入の見通しもないまま海外に出て、帰国後も進路が決まらなければ、結局は親に頼ることになるのではないか。その不安がありました。

 

「じゃあ、半年間海外に行くとして、いくら必要なんだ。帰ってきた後の生活費はどうする?」

 

誠さんが尋ねると、翔さんは少し考えてから答えました。

 

「旅費はアルバイトで貯めたお金を使う。帰ってきたら、国際協力につながる仕事を探す」

 

まだ具体性に欠ける計画です。それでも、本人が自分なりに将来を考えていることは伝わってきました。誠さんは、海外に行くこと自体を認めるかどうかではなく、旅費や帰国後の生活を含め、計画を具体的に示すよう求めました。親が負担するのは学費までで、卒業後の生活費まで出し続けるつもりはないことも伝えます。

 

厚生労働省と文部科学省の調査では、令和8年3月に卒業した大学生の就職率は、同年4月1日時点で98.0%でした。ただし、これは就職を希望した学生のうち就職した人の割合です。大学卒業後の進路はさまざまであり、就職だけが唯一の選択肢というわけではないのです。