在宅介護の限界に伴う施設入居では、親の年金額を上回る費用負担や、預けた後も続く精神的負担が家族に重くのしかかります。事例を見ていきましょう。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
片道1時間半をかけて面会に行ったのに、「帰れ!」…年金20万円、高級老人ホームで暮らす81歳父を見舞った54歳娘の無力感 (※写真はイメージです/PIXTA)

親の施設入所にかかる費用

親の介護において施設の入所には大きなお金がかかります。

 

将さんが受給していた「月額約20万円」という年金は、世間一般から見れば決して低い金額ではありません。厚生労働省年金局『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)受給権者における男性の平均年金月額は16万3,875円です。将さんの年金は平均を4万円近く上回る恵まれた水準にありました。

 

それにもかかわらず、在宅生活が困難になって民間施設を選択した途端、この受給額であっても大幅な資金不足に直面します。

 

生命保険文化センター『2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査』によると、過去3年間に介護を経験した世帯における月々の介護費用の平均は、在宅介護が4万8,000円であるのに対し、施設介護では12万2,000円と約2.5倍に跳ね上がります。また、一時的な費用(入居準備金や一時金など)は平均74万円、平均介護期間は61.1ヵ月(約5年1ヵ月)におよびます。

 

さらに、この調査の施設平均「月12万2,000円」は、費用が比較的安価な特別養護老人ホーム(特養)などの公的施設を含んだ数値です。特養は原則「要介護3以上」が入所条件であり、要介護度が軽いうちや緊急時の受け入れ先としては民間の有料老人ホームを選ばざるを得ないケースが少なくありません。民間の介護付き有料老人ホームの場合、居住費・食費・管理費や介護サービス自己負担分を合算すると、月額利用料は25万〜30万円超となるのが一般的です。

 

月額30万円の施設に入居した場合、年金20万円を全額充てても毎月10万円以上の持ち出しが発生します。平均介護期間である約5年間(61.1ヵ月)入居を継続すれば、不足分の補填だけで約600万円、入居一時金を合わせれば1,000万円前後のまとまった資金が親の年金とは別に必要となります。

 

綾子さんの家庭では、夫の経済力によってこの高額な持ち出しをカバーできたため、「施設に預けて物理的な距離を保つ」という選択肢を確保できました。しかし、もしこの費用を工面できず、やむを得ず在宅介護を続けていたとしたらどうなっていたでしょうか。総務省『令和4年就業構造基本調査』が示すとおり、年間10万6,000人が介護や看護を理由に前職を離職しています。日々の暴言や拒絶を24時間受け止めながら在宅で看続ければ、介護離職や心身の疲弊による共倒れへと直結していた可能性は極めて高かったといえます。

 

親の施設費用は、単なる「親孝行の対価」ではなく、「子世代の生活と心を守るための防衛費」でもあります。親から忘れ去られ、罵倒される心の痛みはお金では防げませんが、物理的な破滅を避けるためには、親の年金と資産でどの施設が選択できるのか、不足分をどう工面するのかを早期に考えておくことが重要です。

 

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