認知症の高齢者が家族の顔や名前を思い出せなくなることがあります。病気による変化だと頭では理解していても、身近な人に忘れられた側の悲しみは、簡単には割り切れません。とりわけ、人生経験の少ない子どもにとっては、戸惑いや寂しさが大きくなることも。年金月14万円の87歳祖母と、10歳の孫に起きた出来事から、認知症と家族の関わり方を考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
〈年金月14万円・87歳祖母〉老人ホーム入居から6ヵ月後、10歳孫が「もう会いに行かない」と面会を拒絶したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

ショックの孫、「もう会いに行かない」と涙

帰りの車の中で、大翔くんはほとんど口を開きませんでした。家に着いてから、ようやく小さな声で尋ねました。

 

「おばあちゃん、僕のこと、本当に忘れちゃったの?」

 

真由美さんは、認知症が進むと名前や顔がわからなくなることもあると、改めて説明しました。それでも大翔くんは納得できません。「前は僕のこと、すぐわかったのに」「僕、何か悪いことした?」と聞き、最後には「もう会いに行かない」と涙ながらに訴えました。

 

真由美さん自身もショックを受けました。いつか娘である自分のことも忘れてしまうのではないか。そう思うと、涙が出そうになったといいます。そして、息子が想像以上にショックを受けていたことにも胸を痛めました。

 

真由美さんは、息子に「会いに行かなきゃだめ」とは言いませんでした。代わりに、祖母がわざと忘れたのではないこと、大翔くんが悪いわけでもないことを、何度も言葉にしました。そして、症状によっては、思い出したり、思い出せなかったりすることを伝えました。そのうえで、会いに行くかどうかは、大翔くんにまかせることにしました。

 

2週間後、面会に向かうとき、大翔くんは自分から「僕も行く」と言ったそうです。

 

「その日も反応は鈍かったのですが、途中で大翔のことを思い出すこともありました」

 

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、令和4年時点で65歳以上の認知症高齢者数は443.2万人(有病率12.3%)と推計され、誰もが直面し得る課題です。

 

同白書によると、日本の高齢者が生きがいを感じる時として「子供や孫など家族との団らんの時」が53.6%で最多となっており、家族との絆は大きな支えとなります。一方で、同居介護者の68.9%を女性が占めるなど家族の負担も大きく、記憶の変化による戸惑いも生じます。

 

認知症への正しい理解を深め、介護サービスや周囲の支援を活用しながら、家族だけで抱え込まず温かく見守る関わり方が大切です。