認知症の高齢者が家族の顔や名前を思い出せなくなることがあります。病気による変化だと頭では理解していても、身近な人に忘れられた側の悲しみは、簡単には割り切れません。とりわけ、人生経験の少ない子どもにとっては、戸惑いや寂しさが大きくなることも。年金月14万円の87歳祖母と、10歳の孫に起きた出来事から、認知症と家族の関わり方を考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
〈年金月14万円・87歳祖母〉老人ホーム入居から6ヵ月後、10歳孫が「もう会いに行かない」と面会を拒絶したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

老人ホーム入居から半年、祖母のひと言に固まった10歳の孫

「今度の土曜日、おばあちゃんに会いに行くよ」

 

10歳の大翔くん(仮名)は、祖母の和子さん(87歳・仮名)が老人ホームに入居してから、母親の真由美さん(60歳・仮名)と一緒に面会に通っていました。和子さんの年金収入は月14万円ほど。認知機能の低下も見られるようになったため、家族で相談して入居を決めたのは半年前のことです。

 

選んだのは、年金額を踏まえて無理なく入居できるホームで、真由美さんの自宅からは車で1時間ほどの距離にありました。

 

大翔くんは根っからのおばあちゃん子。面会では学校であったことを話し、和子さんは「そうなの、それでどうしたの」と楽しそうに聞いてくれました。帰り際には「また来てね」と手を振る祖母に、大翔くんも「また来るね」と答えていました。

 

ところが、入居後、和子さんは少しずつ同じ話を繰り返すようになりました。大翔くんの学校の話を聞いても、すぐに内容を忘れてしまうことが増えていきます。

 

真由美さんは、母の変化を息子に説明していました。「おばあちゃん、病気のせいで忘れちゃうことがあるんだよ。大翔のことが嫌いになったわけじゃないからね」。大翔くんは「うん」と答え、いつも通り面会に来ていました。

 

入居から6ヵ月ほどたったある日、いつものように祖母に面会に来た大翔くん。その日は、1ヵ月ぶりの面会でした。すると和子さんは不思議そうな顔を向けました。

 

「あなたは、どなた?」

 

大翔くんは笑顔のまま、動きを止めました。「僕だよ、大翔だよ」と名乗っても、和子さんは困ったように首をかしげます。

 

「ごめんなさいね。どこかで会ったかしら」

 

真由美さんが「お母さん、孫の大翔だよ」と伝えても、和子さんは思い出せない様子でした。大翔くんは持ってきた学校の絵を差し出すこともできず、母親のそばでうつむいていたそうです。