(※写真はイメージです/PIXTA)
親の敷いたレールを歩んだ22年間
「僕だけがなにも答えられませんでした」
都内の大手IT企業に入社したマサトさん(22歳)。多くの人が羨むような経歴を歩んできた優等生です。
マサトさんの父親は大企業で役員を務める厳格な人物。家庭内には常に「結果を出して当たり前」「人より秀でていなければ価値がない」という無言のプレッシャーが漂っていました。専業主婦の母親も、「お父さんのようになりなさい」「いま頑張れば、将来楽だから」と常々いっていました。
一人息子として幼少期から期待を背負ったマサトさんは、両親の期待を裏切るのが怖く、がむしゃらに勉強に打ち込みました。地元でトップの進学校へ入学すると高校で学年1位の成績を維持し、現役で難関国立大学に合格。就職活動でも妥協せず、倍率何十倍もの大企業から早々に内定を獲得しました。「これで人生が楽になる」。このとき、そう思ったそうです。
これまで、父親から「よくやった」と一言褒められることが、マサトさんにとって最大のモチベーションであり、自分の存在理由そのものでした。
しかし、入社式の会場で、その緊張の糸が突然プツリと切れる瞬間が訪れます。
集まった大勢の新入社員たち。壇上で社長や役員が言葉を寄せ、同期が代表の挨拶を述べる様子を眺めていたとき、マサトさんの頭の中にふと疑問が浮かびました。
(自分は、この会社でなにになるのだろうか……?)
振り返れば、進学先も就職先も、すべて「父親が納得するか」「世間体として申し分ないか」を基準に選んできました。自分の意志で「これがしたい」と強く望んで決めたことなど、一つもなかったことに気づいたのです。
「高校で1位を取ったときも、大学に受かったときも、内定をもらったときも、真っ先に思ったのは『これで怒られずに済む』でした。そして入社式の日、父親の承認を得るための長いレースがようやく終わったと同時に、『じゃあ、これから自分はなんのために生きていけばいいんだ?』という虚無感に襲われたんです」
周りの同期たちが「早く仕事を覚えて活躍したい」「こんなプロジェクトに関わりたい」「5年後に起業したい」「海外へ行きたい」などと熱っぽく語り合うなか、マサトさんは自分の内側が完全に空っぽになっている感覚に震えていました。
「父の敷いたレールを完璧に走り抜けてきたけれど、その先にあったのは達成感ではなく、自分という人間がどこにも存在しないという絶望でした」
輝かしい経歴と引き換えに、自分を見失ってしまったマサトさん。期待に応え続けた優等生が辿り着いたスタートラインは、深く重い迷いの始まりでもありました。