大学進学のために奨学金を利用する学生は多いものの、金融リテラシーが十分でないまま、手続きを進めてしまうケースは少なくない。昨今は、金利上昇へ転換したこともあり、高校生時代の選択は、社会人になってから想像以上に大きな影響をおよぼすことも。Aさんの事例を紹介する。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
奨学金120万円を「固定金利」で借りた高校生が、銀行員(現在26歳)になって直面した金利上昇…融資担当として痛感した“あの日の選択” (※写真はイメージです/PIXTA)

転職先による返済支援

転職後、Aさんは現在の勤務先に奨学金の返済を支援する制度があることを知った。人事部に相談して申請し、現在は支援を受けている。

 

勤務先が採用しているのは、奨学金の返済支援額を「給与手当」として基本給に上乗せして支給する方式である。毎月の給与明細に手当として記載され、その分だけ支給額が増える仕組みだ。

 

制度の恩恵に感謝しつつも、融資や人事業務を通じてキャッシュフローに明るくなったAさんは、手取りへの影響にも目を向けるようになった。

 

「手当そのものはありがたいんです。ただ、給与に乗るので、社会保険料の算定にも入ってくるんですよね。それこそ社会保険料も額が今年もちょっと上がったりして。手当の額面どおりには効いていない感覚があります」

 

そこでAさんが関心を持っているのが、企業がJASSOへ直接送金を行う「代理返還」制度である。

 

奨学金の返済支援…「給与手当」と「代理返還」

企業による奨学金返還支援には、従業員に手当として支給する方法のほか、企業が従業員に代わってJASSOへ直接返還する代理返還制度がある。代理返還は2021年4月から利用可能となった仕組みで、企業が従業員に代わって日本学生支援機構(JASSO)へ貸与奨学金の返還残額の一部または全額を直接返還する。一定の要件を満たせば支援額が所得税の非課税となり、社会保険料の算定対象からも原則として除外される利点がある。

 

どちらも従業員の返済負担を軽減する支援だが、税や社会保険料の取り扱いには違いがある。JASSOによると、代理返還では、支援額に係る所得税が非課税となる場合があり、支援額は原則として標準報酬月額の算定のもととなる報酬に含まれない。標準報酬月額は、健康保険料や厚生年金保険料を計算する基礎となるものだ。

 

一方、返済支援を給与手当として支給する場合は、原則として通常の給与と同じく課税や社会保険料の対象となる。ただし、代理返還であれば常に非課税・社会保険料の対象外になるわけではない。役員への支給など、課税対象となる場合があるほか、給与に代えて代理返還を行う場合には、社会保険上の報酬に含まれることがある。導入時には、自社の制度設計や支給方法に即した確認が必要だ。

 

「手当としてもらって自分で返済口座に移すよりも、会社から直接機構へ返還してもらえれば、借入残高が確実に減っていきます。返済そのものを確実に進めるという意味でも、理にかなった仕組みだと感じます」

企業にとっても、代理返還による支援は損金算入が認められるなど税務上の利点があり、若手人材の採用や定着に向けた施策として注目されている。自社の運用体制や従業員の手取り効果を勘案しながら、どの支援方式を選ぶかが問われている。

 

「手当としてもらって自分で返済口座に移すよりも、会社から直接機構へ返還してもらえれば、借入残高が確実に減っていきます。返済そのものを確実に進めるという意味でも、理にかなった仕組みだと感じます」

 

企業側にもある、代理返還を導入するメリット

企業にとっても、代理返還による支援は損金算入が認められるなどの利点があり、若手人材の採用や定着に向けた施策としても注目されている。

 

ただし、税務上の取り扱いには条件があり、役員給与などは損金算入に制限が生じる場合がある。賃上げ促進税制についても、適用要件を満たす必要がある。実際に導入する際には、JASSOの案内を確認したうえで、税理士などの専門家や関係機関に相談することが望ましい。

 

給与手当か代理返還か、支援方式を選ぶ際は、自社の運用体制や従業員の手取り効果を勘案することが重要だ。