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免許返納、娘が最後にかけた一言
ある日、陽子さんは、いつものように返納を勧めるのをやめました。仮に免許返納した場合の、そのあとの生活について話をすることにしたのです。
「お父さん、免許を返納しても、これまで通り生活できるよう、一緒に方法を考えよう」
買い物は週に何回行くのか。通院先まではどのくらいかかるのか。車がなければ困ることは何か。これまで深く話し合ってこなかった日々の不便について、具体的に確認しました。そのうえで、買い物や通院の手段について話し合ってみたのです。
たとえば、買い物は妻とまとめて出かける日を決める。通院については、家族が送迎できる日と、タクシーを利用する日を分ける。自治体の移動支援や、地域の公共交通機関についても調べることにしました。
「車がなくても、今まで通りの生活はできそうだな」
どこか納得感を得られた様子の博さん。そこを畳みかけるのではなく、陽子さんは最後にこう話を締めくくりました。
「実際に免許を返すかどうかは、お父さんが決めればいい。もし返納を決めたら、そのあとのことは私たちも支えるから自分で決めて」
免許返納を拒む理由のひとつに、老いを認めたくないということもあるでしょう。その気持ちを尊重するのなら、誰かに言われて返納するのではなく、自身で決めることが大切だと陽子さんは考えたのです。
その後、2ヵ月ほどして、博さんは免許を返納するとともに、「これ、査定に出してくれ」と車の鍵を陽子さんに渡してきたといいます。
内閣府『令和5年度高齢社会対策総合調査(高齢者の住宅と生活環境に関する調査)』によると、高齢者の外出交通手段として「自分で運転する自動車」を利用する人は46.6%に上ります。
また、高齢ドライバーの41.6%が「視力の低下等で支障を感じたら」、38.5%が「一定の年齢になったら」運転をやめると回答しています。一方で、地域の不便さとして「日常の買い物(23.9%)」や「通院(23.8%)」、「交通機関の使いにくさ(21.5%)」が挙げられています。
免許返納を進めるには、返納後の代替交通手段や生活維持の方法を具体的に準備することが不可欠です。さらに陽子さんが配慮したように、本人は「免許返納」=「老いによるもの」とネガティブに捉えてしまいがちです。その気持ちに寄り添う姿勢も欠かせません。