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母の希望を尊重したい
「ここまで工夫しているなら、もう少し一人で暮らせるのかな――」
陽子さんはそう考えました。しかし、同時に不安も残ります。メモを活用できていることと、安全に一人暮らしを続けられることは同じではありません。
買い物の重複や予定の取り違えが増えれば、食事や通院にも影響が出る可能性があります。薬の管理など、間違いが健康に直結することについては、家族や専門職による確認も必要になるでしょう。
陽子さん自身、仕事や家庭があるため、毎日のように母の家に通うことはできません。電話だけでは気づけない変化もあります。
総務省『令和4年就業構造基本調査』によると、家族などの介護をしている人は全国で629万人、このうち仕事をしている人は365万人でした。家族が仕事を続けながら介護を担うケースは多く、身内だけで支え続けることには限界もあります。
和子さんが自宅で暮らし続けられるかどうかは、認知症の進行や生活環境、利用できる支援によって変わります。今すぐ施設に入るか、自宅で暮らし続けるかという二者択一ではなく、必要な支援を取り入れながら、状況に応じて考えていくこともできます。
「できることを取り上げないほうが、認知症の進行は遅くなるかもしれない。そう考えると、施設への入居に踏み切れない。いつまで母の気持ちを尊重してあげたらいいのか――難しい問題ですね」
内閣府『認知症に関する世論調査(速報)』(令和7年)によると、自身が認知症になった場合にサポートを受けつつ「地域で生活したい」と望む人は計49.6%に上ります。一方で、自身が認知症になった際の不安として「家族に身体的・精神的負担をかけるのではないか」と答えた人は74.9%に達しています。
親が認知症と診断された際、本人の「自宅で過ごしたい」という意思を尊重しつつも、家族だけで負担を抱え込まないことが大前提。公的支援を早い段階で取り入れ、安全と安心を両立できる環境を整えていくことが大切です。