認知症と診断されても、住み慣れた自宅で暮らし続けたいと願う高齢者は少なくありません。しかし、本人の希望だけで生活を維持できるとは限らず、家族も判断に迷います。ある親子の事例から、認知症を抱える親との向き合い方を考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
認知症が進行しても「施設に入らず、自宅で暮らす」年金月12万円・79歳母。ある日、53歳娘が目撃した「衝撃の光景」 ※写真はイメージです/PIXTA

母の希望を尊重したい

「ここまで工夫しているなら、もう少し一人で暮らせるのかな――」

 

陽子さんはそう考えました。しかし、同時に不安も残ります。メモを活用できていることと、安全に一人暮らしを続けられることは同じではありません。

 

買い物の重複や予定の取り違えが増えれば、食事や通院にも影響が出る可能性があります。薬の管理など、間違いが健康に直結することについては、家族や専門職による確認も必要になるでしょう。

 

陽子さん自身、仕事や家庭があるため、毎日のように母の家に通うことはできません。電話だけでは気づけない変化もあります。

 

総務省『令和4年就業構造基本調査』によると、家族などの介護をしている人は全国で629万人、このうち仕事をしている人は365万人でした。家族が仕事を続けながら介護を担うケースは多く、身内だけで支え続けることには限界もあります。

 

和子さんが自宅で暮らし続けられるかどうかは、認知症の進行や生活環境、利用できる支援によって変わります。今すぐ施設に入るか、自宅で暮らし続けるかという二者択一ではなく、必要な支援を取り入れながら、状況に応じて考えていくこともできます。

 

「できることを取り上げないほうが、認知症の進行は遅くなるかもしれない。そう考えると、施設への入居に踏み切れない。いつまで母の気持ちを尊重してあげたらいいのか――難しい問題ですね」

 

内閣府『認知症に関する世論調査(速報)』(令和7年)によると、自身が認知症になった場合にサポートを受けつつ「地域で生活したい」と望む人は計49.6%に上ります。一方で、自身が認知症になった際の不安として「家族に身体的・精神的負担をかけるのではないか」と答えた人は74.9%に達しています。

 

親が認知症と診断された際、本人の「自宅で過ごしたい」という意思を尊重しつつも、家族だけで負担を抱え込まないことが大前提。公的支援を早い段階で取り入れ、安全と安心を両立できる環境を整えていくことが大切です。