定年後も働き続け、収入を確保する――そう考えている会社員は少なくないでしょう。しかし、定年後の雇用が見込まれていても、誰もが同じ職場で働き続けられるとは限りません。役職や給与、職場での立場が変わるとき、本人は何を受け入れ、何に悩むのでしょうか。月収67万円の営業部長が、退職を決意するまでの経緯から考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「このまま消えてやろうと思いました」月収67万円・59歳営業部長、「定年後も働く」が既定路線だったが…「今月で辞めます」と心変わりした納得の理由 ※写真はイメージです/PIXTA

定年退職を目前にして決めた新たな挑戦

会社との面談で、高橋さんは営業経験を生かせる仕事を希望しました。しかし、提示されたのは、後任に業務を引き継いだ後、担当者として営業支援などに携わる働き方でした。

 

会社としては、若手への権限移譲を進めながら、高橋さんの経験も活用する考えだったのでしょう。それでも、本人が想像していた働き方とは違っていました。

 

「会社がシニア社員を活用しようとしていることはわかっています。ただ、自分の経験を今後どこまで生かせるのかが見えなかったんです」

 

高橋さんは悩みました。月収67万円を手放すのは簡単ではありません。定年まで勤めれば退職金も受け取れます。定年後も再雇用で働けば、収入を確保できます。今、辞めるのはもったいない。そう考えると、なかなか決断できませんでした。

 

一方、納得できないまま働き続けることにも抵抗がありました。別の会社なら、これまでの営業経験を生かせるのではないか。59歳からの再就職が簡単ではないことは承知していましたが、新しい環境で挑戦したいという思いが強くなっていったのです。

 

「このまま消えてやろうと思いました。会社に残ることばかり考えていましたが、ほかの場所で自分の経験を生かす道もあるのではないか、と考えるようになったんです」

 

退職後の生活を考えるうえで、収入の見通しは欠かせません。厚生労働省は、65歳までの雇用確保に加え、70歳までの就業機会確保を企業の努力義務としています。ただし、働き続ける選択肢があることと、希望する仕事に就けることは別です。仕事内容や給与、退職後の生活費を具体的に確認する必要があります。

 

高橋さんは預貯金や住宅ローンの残額、今後の生活費を確認し、収入が減った場合の家計も試算しました。悩みに悩んだ末、定年退職を目前にして、当初の予定を変更します。

 

「今月末の定年を機に辞めます」

 

会社に残るつもりだった高橋さんの決断に、会社は驚いたといいます。

 

再就職先はまだ決まっていません。希望する仕事が見つかる保証もなく、収入が減る可能性もあります。それでも高橋さんは、これから自分に合った仕事を探すつもりです。

 

「不安はあります。でも、これまでとは違う環境で、どんな仕事ができるのか楽しみでもあります。新しいことに挑戦できると思うと、ワクワクしています」

 

労働政策研究・研修機構『60代の雇用・生活調査』によると、定年直後の就業経緯として自社での「再雇用・勤務延長」が73.9%を占めます。一方、65歳以降も働くうえで「専門知識・技能」が必要と考える人が46.2%。その反面、高齢期のキャリア準備に「特に取り組んだことはない」人は65.4%に達しています。

 

制度上の雇用確保に甘んじることなく、自身の経験や希望に応じた主体的な働き方を選択することが重要です。