(※写真はイメージです/PIXTA)
悠々セカンドライフのはずが、老後1日目からの大きな誤算
仲野隆さんは、ごく普通の会社員でした。真面目な性格で、60歳で定年退職となったあとも、65歳まで雇用延長しました。会社員時代の隆さんは仕事人間というわけではなかったものの、会社への通勤は1時間程度かかっていたので、朝は6時半に家を出て、帰宅は21時から22時という平日に自由時間がほとんどない日々を送っていました。
妻の尚子さん(仮名)は2歳年下で63歳です。週3日のパート勤務をしており、パートがない平日は、友達付き合いで、外出することも多く、自分の時間を楽しんでいました。
夫婦のあいだの子どもは、2人。長男の雄二さん(仮名/33歳)と長女の恵さん(仮名/30歳)は、2人ともすでに結婚して独立をしています。
65歳の雇用延長を終えた日、隆さんは職場の同僚たちが開いてくれた送別会に参加し、終電で帰宅しました。尚子さんには、事前に伝えてあったので、退職したからといって特別な出迎えはありません。隆さんは風呂に入ると、翌朝の目覚ましをセットする必要がない解放感を噛み締めながら、ぐっすりと眠りにつきました。
翌朝、目覚めたのは、8時半を回ったころ。寝室から1階に降りてみると尚子さんが居間でテレビを見ています。
「おはよう。お疲れさまでした」と笑顔で退職を労う言葉をかけてくれました。その後、テレビに向き直ると、「今日はこれから出かけるから、お昼は自分でやってね。私も平日はあまり家にいないから、自分のことはやってね」と告げられました。
尚子さんに悪気があったわけではありません。しかし、その口調の冷ややかさに、隆さんは突き放されたような印象を受けました。
夫の「期待」と妻の「憂鬱」…お金の不安がなくても忍び寄る熟年離婚のリスク
隆さんは、これからは自分の時間がたっぷりと取れる日々が待ち受けていると期待に満ちていました。それだけに、尚子さんの一言で淋しさ感じたそうです。一方、尚子さんの側にも言い分があったようです。気持ちは言葉に漏れでていたように、「これからはずっと夫の面倒をみなくてはいけないのか」という憂鬱を抱えていたからです。
隆さん夫婦の家計に目を向けると、老後の経済的な問題はあまりありません。隆さんは、老後資金として2,000万円を貯蓄し、後日、退職金1,500万円が入金される予定です。尚子さんにも知らせており、老後の生活は安心だろうと夫婦で話し合っていました。
年金に関しても、隆さんの受給額は月18万円。尚子さんが65歳になって受け取ることができる予定額は7万円と合わせれば25万円ほどになります。
総務省の「令和7年度 家計調査(家計収支編)」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の実収入は25万4395円。社会保険料など非消費支出を除いた可処分所得は22万1,544円です。隆さん夫婦の年金収入は平均的な額で、貯蓄もあることから、老後の生活が困窮することはないと考えられます。
それにもかかわらず、退職初日から夫婦の足並みは大きく乱れてしまいました。
隆さんの気持ちとしては、退職翌日は、尚子さんも家から出ることなく、一緒に過ごしてくれると思っていたようです。
令和7年の人口動態調査によると昭和60(1985)年の同居期間20年以上の離婚件数は2万434件で離婚総数の約12%でしたが、令和7(2025)年では3万9,886件と離婚総数の約22%と10%増えています。35年以上の同居期間があるケースでも、昭和60(1985)年の1,108人から令和7(2025)年には7,336人と7倍近くになっています。
隆さん夫婦は離婚にまで至っていないものの、長年連れ添った夫婦であっても、定年を機に夫婦お互いが違う方向を向いているというケースは珍しくありません。