ここ数年の株高で長期保有していた株が大きく値上がりし、一気にFIREを検討するようになった人もいるでしょう。しかし、見切り発車で会社を退職してしまうと、物価上昇や思わぬ出費で資産を減らしてしまうケースもあります。今回はFIRE後に親から受け継いだ家の修繕に大金が必要になった57歳の男性の事例から、FIRE前に考えておくべきポイントをCFPの松田聡子氏が解説します。
2年前に資産6,000万円でFIREしちゃった57歳男性、年4%の運用益があったのに「会社員に戻りたい」と後悔したワケ【CFPが解説するFIRE後に待つ「3つの誤算」】
「6,000万円あれば十分だ」55歳で会社を辞めた男性
「これだけ資産があれば、節約すれば働かなくても生活できるだろう」
2年前、小松英俊さん(57歳・仮名)は、30年以上勤めた会社を55歳で退職しました。小松さんは独身で、子どもはいません。小松さんは若いころから倹約家で、給与からコツコツと貯蓄や投資を続けてきました。さらに近年の株高も追い風となり、金融資産は6,000万円ほどに増えていました。
ちょうどそのころ両親が相次いで亡くなり、築40年ほどの実家を相続。住宅ローンはなく、家賃もかかりません。そこで小松さんが考えたのがFIREでした。
当時の生活費は月20万円ほど、年間で約240万円です。
「6,000万円の4%なら240万円。年4%程度で運用できれば、資産を大きく減らさず暮らしていける」
そう考え、ストレスの多かった会社員生活に区切りをつけました。満員電車に乗ることもなくなり、趣味の映画や読書もゆっくり楽しめます。長年の会社員生活から解放された当初、小松さんはFIREしてよかったと感じていました。退職後も資産運用は順調で、平均して4%程度の運用益を確保できています。
ところが、計画どおりだったFIRE生活に少しずつ誤算が生じます。食品や日用品、電気代などが値上がりし、生活費が月20万円では収まらなくなってきたのです。
「まあ、これくらいなら何とかなる」
そう思っていた小松さんに、さらに大きな出費が襲います。
自宅の屋根や外壁、水回りが老朽化
大雨が続いたある日、小松さんは天井に雨染みを見つけました。業者に調べてもらうと、屋根だけではなく下地も傷んでおり、外壁や水回りにも老朽化が見つかりました。この先も住み続けるのであれば、いずれ直さなければなりません。
「中途半端に直して、また数年後に工事するくらいなら……」
小松さんは思い切って大規模なリフォームをすることを決めます。その費用は800万円を超えました。
生活費の取り崩しもあり、6,000万円あった金融資産はいつの間にか5,000万円台前半まで減少しました。仮に同じ4%で運用できたとしても、6,000万円なら年間240万円だった運用益は、5,200万円なら208万円です。元手が減れば、同じ利回りでも得られる運用益は少なくなります。
すると、それまで考えなかったことが気になり始めました。
「もし大きな病気をしたらどうするんだろう。この家の修繕にまた何百万円もかかったら? あと30年生きるとしたら、本当にお金は足りるのだろうか」
このままの生活を続けていくことが不安になり、会社員に戻ることも考えました。しかし、すでに退職から2年。60歳も近づいており、以前と同じような待遇の仕事を探すのは簡単ではありません。
「完全に辞める必要はなかった。週に2~3日でも働いていればよかった」
次第に小松さんは、FIREしたことを後悔するようになりました。