「給料が時給になるなら…」再雇用を断った60歳男性

大手百貨店の経理部で長年働いてきた西崎信太郎さん(60歳・仮名)は、定年を目前にして会社から再雇用についての説明を受けました。

仕事内容はこれまでと大きく変わらないものの、雇用形態が変わり、給与は時給制になるとのこと。社会保険には引き続き加入できますが、収入は現役時代より大幅に下がります。

「同じような仕事をするのに、給料だけ下がるのか……」

もちろん、定年後も安定した収入が入るメリットはあります。しかし、何週間も悩んだ末、信太郎さんは再雇用を選ばず、定年で会社を離れることにしました。

妻の文子さん(57歳・仮名)は、近所のスーパーでパートとして働き、月5万円ほどの収入があります。一人娘はすでに結婚し、近くに住んでいます。住宅ローンは完済済みで、退職金は1,900万円、夫婦の貯蓄は700万円。合わせて2,600万円の資産がありました。

「生活費は月25万円くらい。文子のパート代を除いた20万円を毎月取り崩しても、年金が出る65歳までに使うのは1,200万円。なんとかなるだろう」

ところが、退職後に気になり始めたのが、銀行口座から出ていくお金の多さでした。生活費だけではありません。住民税は原則として前年の所得をもとに課税されるため、退職して収入が減ってもすぐに負担が軽くなるわけではありません。健康保険を国民健康保険に切り替えれば保険料の支払いもあります。さらに、それまで信太郎さんの扶養に入っていた57歳の文子さんは国民年金の第1号被保険者となり、自分で保険料を納めなければならなくなりました。

「思った以上のペースで減っていくな」

信太郎さんは毎月減っていく預金残高を見て不安を感じるようになりました。

そんなとき、学生時代の友人から聞いたのがスマートフォンのアプリを利用したスポットワークでした。友人は週に数回、都合のいい日にだけ働き、趣味や旅行も楽しんでいるといいます。

「それなら、自分にもできるかもしれない」

信太郎さんが選んだのは、近所の飲食店での調理補助でした。最初は慣れない仕事に戸惑ったものの、働くのは1日5時間程度。経理一筋だった会社員時代とはまったく違う仕事が、意外にもよい気分転換になりました。

次第に週3日前後働くようになり、月の収入は8万円ほどになりました。