内閣府の「令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査」によると、子どもとの同居・近居を希望する高齢者の88.7%が、そのメリットとして「ちょっとした手助けが必要な場合に安心して過ごせる」と回答しています。一方、成人した子どもが実家で暮らしていると聞けば、「親に依存している」と考える人もいるでしょう。東京都内の実家で79歳の父、73歳の母と暮らす44歳の女性は、義妹が口にしたある言葉を偶然耳にし、強い嫌悪感を覚えました。
いつまで実家で世話になるつもりですか?義妹から〈子供部屋おばさん〉と揶揄された44歳女性…心ない一言に傷つくも「思わぬ援軍」に涙を浮かべたワケ ※写真はイメージです/PIXTA

「それ、ひどくない?」ミカさんの前に現れた思わぬ援軍

後日、ミカさんは学生時代から付き合いのある友人たちに、この話をしました。友人の一人は企業でマーケティング職として働き、もう一人は商社勤務。学生時代から仕事、結婚、親のことまで話してきた長い付き合いです。

 

ミカさん自身は、「まあ、そう見えるのかもしれないけどね」と半ば自嘲気味に話したそうですが、友人たちは違いました。

 

「いや、それひどくない?」「ミカが普段何やってるか、全然知らないんじゃない?」

 

友人たちのほうが怒り始めたのです。二人は何度もミカさんの実家へ遊びに来ていました。待ち合わせ前に父を病院へ送っていたことも、食事中に母から「この書類どうすればいい?」と電話がかかってきたことも知っています。旅行中にまで、両親からスマートフォンの操作について連絡が来ていたこともありました。

 

マーケティング職の友人は、少し呆れたようにこう言ったといいます。

 

「物価高もあるし、親も高齢化している世の中で、親と住んでいるだけで自立してないって決めつけるほうが、どっちが時代遅れなんだろうね」

 

その言葉を聞いて、ミカさんは少し救われた気がしたそうです。そして帰り際、友人たちはこう言いました。

 

「今度、弟さんたちが来るとき教えて」

友人たちが作った「ミカがやっていることリスト」

しばらくして、弟一家が再び実家へ来ることになりました。その日、ミカさんの学生時代の友人2人も実家に偶然を装って遊びに来ていました。事前に友人たちは、ミカさんが普段、両親のためにしていることを書き出していました。

 

父母の通院時の送迎。病院や役所への問い合わせ。行政関係の書類の確認。ネット通販や各種予約。スマートフォンやパソコンの設定。重い日用品の買い出し。家の細かな修繕。両親が体調を崩したときの対応。さらに、弟一家が訪れる際の布団の準備や買い出しまで。そして食事をしながら話すなかで、自然とミカさんの実家暮らしの話に水を向け、ついに友人の一人が口を開きました。

 

「でも、ミカってお父さんとお母さんにかなり頼られてるよね」

 

もう一人も続けます。

 

「そうそう。病院も役所も買い物も、いつもミカがやってるじゃん」

 

そして、二人は先ほどのリストを見ながら、「これもやってるよね」「あ、この前は病院の予約もしてた」と、次々と挙げていきました。

 

義妹は最初、「へえ、そうなんですね」と返していたものの、次第に口数が少なくなっていったそうです。最後にマーケティング職の友人が言いました。

 

「一緒に住んでる家族って、どっちかだけが一方的に世話になってるわけじゃないよね。外からじゃわからないこと、いっぱいあるし」

 

ミカさん自身は、ほとんど何も言いませんでした。

 

「自分で『こんなにやっています』と言うのは嫌だったんです。でも友達がずらっと並べてくれて、自分でも『私、意外といろいろやっていたんだな』と思いました」

「今はこれが、私たちにとってちょうどいい家族の形なの」

それまで黙って話を聞いていた母が、ここで口を開きました。

 

「私たちは、ミカに大変助けられているのよ」

 

そして、こう続けました。

 

「女の子だから頼っているわけではないわ。娘なんだから親の面倒を見て当然だなんて思っていない。ミカだって、これから誰かと暮らす日が来るかもしれないし、また一人暮らしがしたいと思って家を出る日だって来るかもしれない。そのときは、ミカの好きなようにすればいいと思ってる。でも、今はこれが私たちにとってちょうどいい家族の形なの」

 

そして、今度はミカさんのほうを向き、しみじみと言いました。

 

「あんたは、いい友達を持ったわね」

 

友人たちは顔を見合わせ、少し照れながらもうれしそうに笑っていました。一方、弟夫婦はその後ほどなくして席を立ったそうです。

 

「気のせいかもしれませんけど、いつもよりずいぶん早かったです。そそくさと帰っていったように見えました(笑)」

「世話になる側」は一方ではない

親と暮らせば、家賃や生活費を抑えられる場合があります。その恩恵を受けている以上、「完全に親から独立している」と言い切れないケースもあるでしょう。しかし、高齢になった親との暮らしでは、子どもが担う役割もまた増えていきます。

 

病院への送迎や付き添い。行政手続き。IT機器の操作。買い物。家の管理。そして、何かあったときにすぐ近くに人がいること。それらは家計簿には金額として表れにくく、家の外からも見えにくいものです。

 

内閣府の「令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査」では、子との同居・近居を希望する高齢者にそのメリットを尋ねたところ、「ちょっとした手助けが必要な場合に安心して過ごせる」が88.7%で最多でした。続いて、「自立した生活ができなくなった場合に世話をしてもらえる」が43.9%となっています。

 

成人した子どもが「実家に住んでいる」という事実だけでは、その家族のなかで誰が誰を支えているのかまではわかりません。家族の「世話になる」「世話をする」という関係は、案外、一方向ではないのかもしれません。