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44歳、都内の実家で両親と暮らす
ミカさんは独身で、現在は個人事業主として翻訳の仕事をしています。大学卒業後は会社員として働いていましたが、30代で独立。一人暮らしをしていた時期もありましたが、数年前に東京都内の実家へ戻りました。実家は父名義の一戸建てで、住宅ローンはすでに完済しています。
「東京で一人暮らしを続ければ、それなりに家賃がかかります。両親からも『部屋は余っているんだから戻ってくれば』と言われたので。それならお互いにいいかなと思いました」
ミカさんは毎月6万円を家に入れています。食料品や日用品を自分のお金で買うこともありますが、それでも都内で一人暮らしをする場合と比べれば、住居費を抑えられていることは確かです。
「そこは両親に助けてもらっていると思っています。“完全に一人で生活しているのと同じ”なんて言うつもりはないです」
一方で、年齢を重ねた両親からミカさんが頼られる場面も増えてきました。
病院、役所、スマホ…いつの間にか娘の担当に
79歳の父は、現在のところ介護が必要な状態ではありません。ただ、以前より足腰が弱くなり、遠出をする機会は減りました。73歳の母も元気ではあるものの、書類やインターネット関係の手続きには苦手意識があります。そのため、父母が病院へ行く際の送迎や、行政手続きの確認、役所や病院への問い合わせ、ネット通販、各種予約、スマートフォンやパソコンの設定などは、自然とミカさんの担当になっていきました。
重い米や飲料を買うのも、電球を交換するのもミカさん。両親宛てに難しい書類が届けば、「これ、ちょっと見てくれない?」と声がかかります。
「介護をしている、というほどではありません。ただ、一緒に住んでいるから私がやれることをやっている。それだけでした」
反対に、締め切り前で仕事が立て込んでいれば、母が食事を作ってくれることもあります。ミカさん自身は、どちらかが一方的にもう一方を養っているというより、「3人で生活を回している」という感覚だったといいます。
内閣府の同調査では、同居・近居のメリットとして「家賃や光熱費等を節約できる」を挙げた人は10.6%でした。一方、「ちょっとした手助けが必要な場合に安心して過ごせる」は88.7%。親子の同居には、経済面だけでは測れない役割があることがうかがえます。
「いつまでお義母さんたちの世話になるんですか?」
ミカさんには3歳年下の弟がいます。弟は結婚しており、妻と子ども2人との4人暮らし。実家より都心寄りの電車で1時間ほどの場所に暮らしています。
ある日、弟一家が実家を訪れたときのことです。食事を終えたあと、ミカさんが自室に戻ろうとしていると、弟夫婦が話している声が聞こえてきました。聞き耳を立てるつもりはありませんでした。ところが、義妹が発した一言だけは、はっきりと耳に入ってきたのです。
「お義姉さんって、いつまでお義母さんたちの世話になるんだろうね? 子供部屋おばさんじゃん」
ミカさんは、一瞬意味がわからなかったといいます。弟も「姉ちゃんは自由人だから」と言ったきり、ミカさんを庇うそぶりも見せません。
「私が“両親の世話になっている人”という認識なんだ、と気づいて。ものすごく嫌な気持ちになりました」
確かに44歳で実家に暮らし、相場より安い住居費で生活している。それだけを見れば、そう思う人がいることも理解できなくはありません。しかしミカさんの頭には、次々と日常の光景が浮かびました。
父を病院へ連れて行っているのは誰なのか。母の代わりに役所へ問い合わせているのは誰なのか。両親のスマートフォンを設定し、書類を確認し、重い荷物を運んでいるのは誰なのか。さらに弟一家が遊びに来れば、布団を出したり、足りない食材を買いに行ったりするのもミカさんでした。
「今まで、自分がしていることを“親の世話”だなんて数えたこともなかったんです。でもあの一言を聞いて、『私がしていることは、この人には何も見えていないんだな』と思いました」