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「孫のため」が、孫を苦しめていないか
翌日、恵子さんは裕子さんに電話しました。
「蓮が、塾をやめたいって言っていたよ」
裕子さんは驚いたそうです。
「本人から聞いたの?」
「うん。かなりつらそうだった」
裕子さん夫婦も、子どもがそこまで追い詰められているとは思っていなかったといいます。恵子さんは、これまで自分が出してきたお金についても話しました。
「私がお金を出しているから辞められない、っていうのも違うと思う」
裕子さんは黙って聞いていました。恵子さんは、孫のためにお金を使うこと自体が悪いとは思っていません。ただ、「お金を出しているのだから、続けてほしい」という空気が生まれていたのなら、自分もその一端を担っていたことになります。
「孫のためと思っていたけど、私はお金を出すことで、本人がつらいと言っていることに加担していたのかもしれない」
それが、恵子さんが一番気になったことでした。そして、娘夫婦にこう伝えました。
「もうお金を渡すのはやめるわ」
裕子さんは「分かった」と答えました。これまで援助を頼まれたわけではありません。ただいつの間にか「母が出してくれるから」という甘えが生まれていました。恵子さん自身も、本人不在のなか「孫のためになっている」と満足していました。
結局、自己満足だった――そこで恵子さんは決めました。
「孫には1円も出さない」
誕生日やクリスマスにはプレゼントを贈ります。お年玉もあげます。一緒に食事に行けば、食事代を出すこともあります。ただ、教育費については親が子どもの様子を見ながらやりくりをしたらいい。かたくなに、お金は出さないというわけではありません。ただお金を出すことが目的になってはいけないと気づいたのです。
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』によると、同居・別居を問わず子や孫の生活費を「負担している(一部・ほとんどの合計)」と回答した高齢者は25.2%(約4世帯に1世帯)にのぼります。また、「今後、優先的にお金を使いたい対象」として「子や孫のための支出(学費、こづかい等)」を挙げた人も25.8%と、子どもや孫を経済的に支えたいという親心は広く見られます。
しかし親心から生じる金銭的援助が、知らず知らずのうちに家計を圧迫したり、家族間での心理的な負担や不調和を生む要因になっていることもあります。高齢期におけるお金の使い方は、目の前の支援だけでなく、自分自身のこれからの生活や家族との健全な関係性も含めてバランスを考えることが重要です。