(※写真はイメージです/PIXTA)
私の仕事は「家計の足し」ではない
もちろん、アキナさんは「収入が高いほうが偉い」と言いたかったわけではありません。夫の年収のほうが高かったとしても、なぜ子どものことになると、自分だけが仕事を辞める前提で話をされるのか。それが以前から疑問だったといいます。
「私にとって仕事は、夫の給料だけでは足りないから仕方なくやっているものではありません。20年以上続けてきた仕事です。それを『いつ辞めるの?』と聞かれるたびに、私がやってきたことはそんなに軽いものなのかな、と思っていました」
その場にいたショウタさんも、父親に対し、自分も娘の親であり、子育ては夫婦2人でするものだと伝えました。義父はそれ以上何も言わなかったそうです。
これまでアキナさんは、義父の言葉について夫と深く話したことはありませんでした。年に数回のことだからと我慢していたからです。一方のショウタさんも、妻がいつも笑って受け流していたため、それほど嫌がっているとは気づいていませんでした。
「夫にはあとで謝られました。でも正直、『そこはもう少し早く気づいてよ』とは思いましたね」
娘が聞いていた大人たちの会話
帰宅する途中、アキナさんは娘から「お母さんは仕事を辞めるの?」と尋ねられました。義実家での大人たちの会話を聞いていたのです。
アキナさんは、仕事を辞めるつもりはないこと、娘に何かあったときには父親と母親の2人で考えていくことを伝えました。ショウタさんも、子育ては自分も一緒にするものだと娘に話しました。
「義父に言われるだけなら、『昔の人だから』で済ませることもできたのかもしれません。でも、娘まで『子どものために仕事を辞めるのはお母さん』と思ってしまうのは嫌だなと思いました」
義父への違和感を、これまでのように聞き流すことはできない――。アキナさんがそう考えた理由の一つでした。
女性の就業率が上がっても残る「L字カーブ」
女性の働き方は、この数十年で大きく変化しています。内閣府「男女共同参画白書 令和8年版」によると、かつて結婚・出産期に女性の就業率が低下していた、いわゆる「M字カーブ」はほぼ解消されています。一方、現在も課題として残っているのが、女性の正規雇用比率をめぐる「L字カーブ」です。
同白書によると、2025年の女性の正規雇用比率は25~29歳の62.8%をピークに、年代が上がるにつれて低下しています。内閣府は、出産などを契機に働き方を変えたり、女性がキャリアを中断・断念したりする状況が残っていることがうかがえるとしています。
女性が結婚や出産後も働き続けることは珍しくなくなりました。しかし、「子どもに何かあれば母親が仕事を調整する」「家庭を優先するために働き方を変えるのは妻」といった意識まで、同じ速度で変化しているとは限りません。もちろん、子育てを優先して仕事を辞めたり、働き方を変えたりすること自体が問題なのではありません。本人が望み、家族で話し合ったうえで選択するのであれば、それも一つの生き方です。
一方で、本人の希望とは関係なく、「母親になったのだから仕事を辞めるだろう」「夫の収入があるのだから妻は働かなくてもいい」と考えることは、女性の仕事やキャリアを「家計を補助するもの」と捉えることにもつながります。
また、仕事を辞めることによる経済的な影響は、現在の収入がなくなることだけではありません。長期間キャリアを中断すれば、その後の賃金や昇進、将来受け取る年金などにも影響する可能性があります。
アキナさんの「夫より稼いでいます」という一言は、夫婦のどちらが上かを示すためのものではありません。
夫婦それぞれに仕事があり、それぞれが家計と家庭を支えているなかで、なぜ「仕事を辞める側」を最初から母親と決めるのか。家庭と仕事のバランスをどう取るかは、性別ではなく、それぞれの家庭の事情や本人の希望を踏まえて考えていく必要があるでしょう。
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