(※写真はイメージです/PIXTA)
「俺も昔は父さんみたいになると思ってた」
コウヘイさんは、新潟県内の高校を卒業後、東京の国立大学へ進学しました。それまで身近にあった夫婦像は、父親と母親の姿です。父親は朝から晩まで働き、母親が家事と子育てを担う。子どものころは、それを疑問に思ったこともありませんでした。
「俺だって、この家にいたころは、男は働いて、家のことは女の人がするものだと思ってたよ。だって父さんと母さんがそうだったから」
しかし、大学進学を機に実家を離れ、さまざまな人と出会いました。男女を問わず友人ができ、恋愛も経験しました。友人や交際相手と家族の話をするなかで、自分が育った家庭とはまったく違う家族のあり方があることを知ったといいます。
「自分の家で普通だったことが、ほかの家でも普通とは限らないんだってわかった。父さんと母さんの生き方が間違ってるって言いたいわけじゃない。でも、それを俺たちもやらなきゃいけないわけじゃないだろ」
そして、少し笑いながらこう続けました。
「俺、結婚は遅かったけどさ。その分、いろんな人と付き合って、いろんな考え方を知ってから結婚できたのはよかったと思ってるよ」
義母は何も言わなかったそうです。
「情けない」の裏にあったもの
翌朝、義母はマリコさんに、若いころの話をしました。結婚した当時は、「夫が外で働き、妻が家庭を守る」ということにほとんど疑問を持っていなかったこと。子どもが生まれて仕事を辞めたこと。そして、夫が仕事に集中できるよう、家のことは自分がやるものだと思っていたこと。
「お父さんなんて、子どもが小さいころもほとんど何もしなかったわよ。そういうものだと思ってたから。でも昨日、コウヘイとマリコさんを見てたらなんか羨ましくなっちゃった」
息子が家事をすることを「情けない」と感じた背景には、単に男女の役割分担に対する考え方だけではなく、自分自身が何十年も続けてきた生活への思いもあったのかもしれません。自分が当然のこととして引き受けてきた家事を、息子夫婦は当然のように分担している。それを目の前で見れば、「自分の時代とは違う」と頭ではわかっていても、すぐには受け入れられないこともあるでしょう。
帰る日の朝、食事を終えたマリコさんが食器を下げようとすると、義母がいつものように声をかけました。
「マリコさん、悪いけどこれもお願い」
そして少し間を置いて、息子にも言いました。
「コウヘイは洗濯物をお願いできる?」
コウヘイさんは笑いながら「はいはい」と立ち上がりました。
共働きが多数派になっても、家庭の「普通」はすぐには変わらない
内閣府「男女共同参画白書 令和8年版」によると、妻が64歳以下の世帯では、2025年の「雇用者の共働き世帯」は1,254万世帯。一方、「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」は358万世帯となっています。また、2025年の15~64歳女性の就業率は75.3%。女性が働き続けることも、夫婦で家計を支えることも、いまや珍しい選択ではありません。
一方、働き方や家族の形が変化しても、それぞれが育った家庭で身につけた「夫婦とはこういうもの」という感覚が、すぐに変わるとは限りません。
コウヘイさんの母親にとって、家事を引き受けることは、長い結婚生活のなかで当たり前のことでした。だからこそ、息子が台所に立つ姿は、自分がこれまで当然だと思ってきた家族のあり方とは大きく異なるものに見えたのでしょう。しかし、コウヘイさんが実家を離れて気づいたように、自分が育った家庭の「普通」は、数ある家族のあり方の一つにすぎません。
夫婦がどのように働き、家計を支え、家事を分担するのか。そこに一つの正解があるわけではなく、それぞれの収入や労働時間、得意不得意などを踏まえ、当事者同士が納得できる形をつくっていくことが重要です。
「自分の家ではこうだった」から、「自分たちの家庭ではどうするか」へ。
結婚までに少し時間がかかったからこそ、さまざまな人や価値観に触れ、自分にとっての「普通」を見直す時間もあった――。コウヘイさんの言葉は、母親にとっても、これまでの自分の人生を振り返るきっかけになったのかもしれません。
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