人生100年時代、長年住み慣れた「我が家」が、老後の安心を約束してくれるとは限りません。愛着による実家の維持、加齢に伴う身体機能の変化、そして災害時の避難リスクなど、高齢期の住まいを取り巻く課題は多様化しています。今回はある親子の事例から、実家に対する意識のギャップをみていきます。
「勝手に入らないで!」〈年金月14万円〉79歳母が51歳長女に激昂。原因は、築50年超・実家の2階にある「放置されたままの6畳間」 ※写真はイメージです/PIXTA

「実家の片付け」と「親の居場所」の間にあるギャップ

一方、長女の智子さんが片づけを急ぐ背景には、実家の将来に対する懸念がありました。

 

築年数が経過した一戸建ての維持管理には手間がかかります。2階への階段昇降は、将来的に洋子さんの転倒リスクにつながる可能性も否定できません。

 

「お母さんが元気なうちに不要なものを減らして、コンパクトな生活に切り替えてほしいの」

 

しかし、洋子さんにとって家は単なる不動産ではありません。長年の思い出が詰まった居場所そのものです。

 

「整理が必要なのは分かっています。このままだと、子どもたちに迷惑をかけることも。ただ、踏ん切りがつかないんですよね」

 

実家じまいや終活といった言葉が一般的になるなか、子世代は「効率や安全」を重視しがちです。一方で、親世代のなかには「記憶の保存」を重視することも少なくありません。

 

無理な片づけや遺品整理は、高齢者の精神的支柱を奪う危険性があります。智子さんも最近では、強引な整理を控えるようになりました。

 

「母にとってあの部屋がどれほど大切か、理解できます。ただ高齢の母が1人、安全に住むことのできる家ではない。どうにかしないと、いけないんですけどね……」

 

国土交通省『令和5年住生活総合調査』によると、住み替えや住宅改善(リフォーム等)の意向がない理由として「現在の住まいに満足している」(34.7%)に加え、75歳以上では「住み慣れている、思い入れがある」が12.1%に上ります。また、65歳以上の夫婦世帯では89.9%が「住み替え意向なし」と回答しています。

 

一方で、住宅の評価では「高齢者への配慮(段差がない等)」に対する不満率が43.4%と最多。バリアフリー面等で安全上の課題を抱えつつも、長年住み慣れた自宅への愛着と思い出が整理や転居への踏ん切りを鈍らせる要因となっているようです。