高収入を得て一見順風満帆に見えるミドル世代であっても、ふとしたきっかけで現在の働き方に強い疑問を抱くことがあります。同窓会に参加し、働き方の目線が変わったという40代男性の事例から、ミドル世代の働き方について考えていきます。
「実家は危険でいっぱいでした…」〈年金月16万円・78歳母〉に「駅チカマンション」を勧めた52歳娘。引越しから3ヵ月、後悔を口にしたワケ ※写真はイメージです/PIXTA

奪われた生きがいと「環境変化」のリスク

和子さんは、引越し前は庭で毎日楽しんでいた花の手入れが唯一の趣味であり、生きがいでした。

 

「きれいに咲きましたね」

「もう春なんですね」

 

近隣住民との会話も、和子さんが手入れしている庭や花の話題から始まりました。しかし、マンションの閉鎖的な空間では、ガーデニングはおろか、人との会話も生まれません。駅チカでありながら、和子さんは外出を面倒がるようになり、1日中テレビの前から動かない日が増えていったのです。

 

内閣府『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』によると、高齢者が生きがいを感じる時として「趣味やスポーツに熱中している時」(53.5%)や「友人・知人と食事、雑談している時」(52.6%)が多く挙げられています。

 

一方で、日常で「人との付き合いがない」と感じることがある高齢者は40.0%に上り、「孤立している」と感じる人も21.2%存在します。長年親しんだ趣味や近所との雑談といった日々のつながりが断たれることは、生きがいを奪い、精神的な孤立感を急激に深めるリスクとなり得ます。

 

陽子さんが母の変貌に決定的な危機感を覚えたのは、引越しから3ヵ月が経ったころ。久しぶりにマンションを訪れた陽子さんに対し、和子さんはおどおどとした視線を向けながら訴えます。

 

「もう帰りたい。元の家に帰りたい」

 

泣き出しそうな母の姿に、陽子さんは言葉を失いました。

 

それだけではありません。数分前に話した内容を何度も聞き返したり、ゴミの分別方法や鍵の開け閉めが分からなくなったりする場面が頻発し始めたのです。

 

慌てて専門の医療機関を受診させたところ、医師から認知機能の低下、さらに住み慣れた環境から強制的に引き離されたことによる「リロケーションショック(環境変化適応障害)」も指摘されました。

 

住み慣れた地域社会や長年培った人間関係を失ったことで、和子さんは強いストレスと孤立感に晒されていたのです。

 

「バリアフリーマンションに移せば安心だと信じ込んでいました。安全を優先するあまり、心の拠り所など、まったく考えていませんでした」

 

厚生労働省が公表している「認知症施策推進総合戦略」等の資料においても、高齢者における生活環境の急変や社会参加の機会喪失が、認知機能の低下を招くリスク要因になり得ると示されています。介護予防や認知症対策では、バリアフリーといった物理的な安全性だけでなく、地域でのつながりや精神的な安心感の維持が重要視されています。

 

親の将来を想う子どもにとって、実家じまいや住み替えの提案は善意からの行動。しかし高齢期においては、これまで築いてきた人間関係や日々の生きがいを守ることも、生活の安全のためには必須です。親の感情や心の準備を置き去りにした住み替えは、取り返しのつかない結果を引き起こす危険性をはらんでいます。