定年を迎えたら長年の労働から解放され、悠々自適な老後を過ごしたいと願うシニア層は少なくありません。しかし、企業規模による退職金の支給格差や、公的年金だけでは賄いきれない生活コストといった現実から、定年直後の完全リタイアは容易ではないのが現状です。事例を見ていきましょう。※事例の人物名はすべて仮名です。
「さらば、しんどいばかりだったサラリーマン生活…」退職金500万円、年金月14万円、定年を迎えた65歳元会社員夫。〈ささやかな老後の夢〉すら62歳パート妻に打ち砕かれたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

会社の定年退職を機に完全リタイアの夢

定年退職を迎えるにあたり、多くの会社員が頼りにする「退職金」ですが、その金額は企業規模によって残酷なほどの格差が存在します。厚生労働省の「令和5年 就労条件総合調査」によると、そもそも退職給付(一時金・年金)制度がある企業は全体の約75%にとどまっており、4社に1社は退職金制度自体が存在しません。

 

同調査で定年退職者に対する退職給付額(退職金と企業年金の合計額)を見ると、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で20年以上勤務した場合の全体平均は1,896万円となっています。しかし、これを企業規模別に見ると厳しい現実が浮かび上がります。従業員1,000人以上の大企業では平均2,191万円に達する一方で、300人~999人の企業では1,662万円、100人~299人で1,347万円、そして30人~99人の小規模な企業では1,282万円と、企業規模が小さくなるにつれて支給額は明確に減少していきます。

 

カズヒコさんの退職金500万円は、本来なら支給予定がなかったため、慰労金という意味合いが含まれているとはいえ、小規模企業の平均水準をさらに大きく下回る金額です。世間一般の「退職金で老後安泰」というイメージに反して、中小企業出身者の多くは、まとまった老後資金を手にすることなく年金生活へ突入せざるを得ないのが実態です。

 

また、60歳以上を対象とした内閣府「2025年 高齢者の経済生活に関する調査」によると、何歳まで収入を伴う仕事をしたいかという問いに対し、「65歳くらいまで」が23.7%と最も多く、次いで「働けるうちはいつまでも(22.4%)」、「70歳くらいまで(20.0%)」と続きます。カズヒコさんのように「65歳で一区切りにしたい」と考える人が最多である一方で、実際の労働現場では65歳以降も働き続けることが一般化しています。

 

性・年齢階級別の就業率は以下のようになっています。

 

男性

60歳〜64歳:84.1%

65歳〜69歳:63.4%

70歳〜74歳:44.5%

 

女性

60歳〜64歳:65.8%

65歳〜69歳:46.1%

70歳〜74歳:28.8%

 

データが示すとおり、男性の場合、60代前半では8割以上、そして65歳を超えても6割以上の人がなんらかの形で就業を続けています。女性も60代前半の約3割強を除いた大半が就労しており、65歳以降も半数近くが仕事を継続しているのが日本のシニア層の実態です。

 

「65歳でサラリーマン生活を完全リタイアしたい」という気持ちもあるでしょうが、現役時代の収入が少なく、年金や貯金などの老後資金が少ない人にとって、それでは生活が立ち行かなくなる可能性があります。

 

定年を迎える前の段階で、夫婦で退職金と年金の受給額、そして今後の生活コストを客観的に共有し、「いつまで、どのような形で働き続けるか」という共通の認識を持っておくことこそが、老後の夫婦関係と経済的な安定を守るための第一歩となるでしょう。

 

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