内閣府の『令和7年版高齢社会白書』によると、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる「健康寿命」は男性が約72歳、女性が約75歳とされています。老後資金を増やすための年金の「繰下げ受給」は有効な選択肢ですが、その間にお金よりも大切な健康を損なってしまえば元も子もありません。本記事では、老後の年金受給額以上に大切な「時間と健康」の考え方について、事例をもとに解説します。
「繰下げ受給しなければ良かった…」年金月21万円に増額した72歳夫の痛恨。妻との〈オーロラを見る約束〉が果たせなくなった残酷な理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

増えた年金でも「健康」は買い戻せない…失われた取り返しのつかない時間

ヨシコさんが脊髄梗塞を発症してしまったのです。進行は思いのほか早く、下半身の機能が低下したヨシコさんは外出時に車いすを手放せなくなりました。

 

長時間のフライトや寒冷地での観光などは体への負担が大きく、オーロラを見るための海外旅行は事実上不可能に。ヨシコさんは、涙ながらにこうつぶやきました。

 

「せっかく頑張って働いてくれたのに、こんな体になってごめんなさい……」

 

車いす生活になってから2年。増額された月21万円の年金のおかげで、医療費の支払いや自宅のバリアフリー改修、日々の介護サービスの利用など、経済的な不安はありません。繰下げ受給で得た余裕が、今の生活を支えていることは紛れもない事実です。

 

しかし、タカオさんの胸の奥には、消えることのない後悔が渦巻いています。

 

「もし俺が65歳で仕事を辞めて旅行していれば、元気な妻と一緒にオーロラを見に行けたのに……」

 

老後資金を優先するあまり、「夫婦が健康で動ける時間」を犠牲にしてしまったタカオさん。どれほどお金が増えようとも、ヨシコさんが自分の足で十分に歩けていた時間は、もう二度と戻ってきません。

 

内閣府の『令和7年版高齢社会白書』によると、日常生活に制限のない「健康寿命」は男性が72.68歳、女性が75.45歳となっています。平均寿命(男性81.05歳、女性87.09歳)との間には約9〜12年もの差があり、70代を迎えると不慮の病気やケガによって日常生活に制限が生じるリスクは高まります。

 

繰下げ受給によって月21万円の年金を手にしたタカオさんですが、健康という財産はお金で買い戻すことができません。年金の受給時期は損益分岐点だけで判断するのではなく、自身や配偶者の健康寿命を考慮して検討することが重要となります。

 

※個人情報保護のため、登場人物の情報等は一部変更しています。

 

 

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