内閣府の『令和7年版高齢社会白書』によると、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる「健康寿命」は男性が約72歳、女性が約75歳とされています。老後資金を増やすための年金の「繰下げ受給」は有効な選択肢ですが、その間にお金よりも大切な健康を損なってしまえば元も子もありません。本記事では、老後の年金受給額以上に大切な「時間と健康」の考え方について、事例をもとに解説します。
「繰下げ受給しなければ良かった…」年金月21万円に増額した72歳夫の痛恨。妻との〈オーロラを見る約束〉が果たせなくなった残酷な理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

15万円の年金を繰り下げて「月21万円」に…72歳夫の老後資金を増やす選択

「あのとき、お金よりも夫婦の時間を優先していれば……」

 

関東地方のベッドタウンにある持ち家で妻・ヨシコさん(仮名・69歳)と暮らすタカオさん(仮名・72歳)は、消えることのない後悔を抱えて日々を送っています。

 

タカオさんが受け取っている年金は、基礎年金と厚生年金を合わせて月に約21万円。これは、本来65歳から受け取るはずだった年金を70歳まで遅らせる「繰下げ受給」を選択し、42%増額された金額です。65歳で定年を迎え、そのまま年金を受け取っていれば、受給額は月15万円ほどでした。

 

厚生労働省の『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)受給者の老齢基礎年金を含む平均年金月額は15万289円となっています。

 

タカオさんが65歳時点で受け取る予定だった月15万円は、まさに平均的な支給水準でしたが、1ヵ月遅らせるごとに0.7%(70歳までで42%)年金額が増額される繰下げ受給を活用し、将来の資金的なゆとりをさらに高める道を選んだのでした。

老後こそお金を気にせずに満喫したい… 「オーロラを見に行く」夫婦の夢を叶えるために再雇用

タカオさん夫婦には「フィンランドでオーロラを見に行きたい」という夢がありました。現役時代は仕事と子育てに追われ、夫婦で旅行をする機会がほとんどなかったため、老後こそお金を気にせずに旅を満喫したかったといいます。

 

「少しでも長く働いて年金を増やせば、お金の心配をせずに気兼ねなく海外旅行を楽しめる」

 

そう考えたタカオさんは、再雇用制度を利用して70歳までフルタイムで働き続けることを決意。「一緒にオーロラを見に行けるなら、私も節約して頑張る」と、ヨシコさんも老後資金を増やす選択には賛成でした。

 

タカオさんが70歳で退職を迎え、いよいよ念願のオーロラを見に行く計画を立てていた矢先、思いもよらない悲劇が襲いました。