夫の収入に支えられ、長年専業主婦として暮らしてきた人でも、離婚や死別をきっかけに突然「働かなければならない立場」になることがあります。53歳女性が直面した再就職の実情をみていきます。
「もう限界だ…」〈月収65万円〉50歳夫から三行半の53歳専業主婦、ハローワークの窓口で若い担当者に言われた屈辱の一言 ※写真はイメージです/PIXTA

マンションを売るか、働くか

ひとり、マンションに残った美紀さん。住むためのマンションはあるものの、生活費はかかります。管理費と修繕積立金だけで月4万5,000円。固定資産税も年間約14万円です。

 

食費や光熱費、通信費などを合わせると、一人暮らしでも月15万円ほどは必要でした。

 

「マンションを売れば、しばらくは生活できる。でも、売ったら次はどこに住むの?」

 

美紀さんは考えました。

 

53歳。結婚してから約30年間、仕事らしい仕事はしていません。

 

「働くしかないか……」

 

そう考え、ハローワークへ向かいました。窓口で履歴書を渡すと、担当者は職歴を確認しました。

 

「結婚前に少し事務をしていました。でも、その後はずっと専業主婦です」

「パソコンは使えますか」

「スマートフォンなら使えます」

 

WordやExcelについて尋ねられると、美紀さんは答えに詰まりました。

 

若い担当者は履歴書を見ながら言いました。

 

「率直に申し上げます。50代で職歴の空白が30年近くあって、PCスキルもないとなると、正直、ご紹介できる仕事は限られます」

 

美紀さんの表情が変わりました。

 

「職歴がないって、どういう意味ですか」

「会社での勤務経験が長期間ないという意味です」

「私は30年間、家のことをやってきました。子どもも育ててきました。それを『何もしていない』みたいに言われるのは心外です」

 

担当者は少し困った様子で答えました。

 

「申し訳ありません。ただ、採用する企業は、家事や子育ての経験を職歴として評価するわけではありませんので……」

 

その瞬間、美紀さんは言葉を失いました。

 

帰宅後も、その言葉が頭から離れませんでした。

 

夫の収入で生活してきたことを、恥ずかしいと思ったことはありませんでした。むしろ、夫が仕事に集中できるよう家庭を守ってきたという自負がありました。

 

それを、20代と思われる担当者から「職歴がない」「紹介できる仕事が限られる」と言われたのです。

 

「まるで、私は社会の役に立たない人間みたいだった」

 

美紀さんは腹が立ったといいます。しかし、紹介された求人票を見ても、自分が希望する事務職は経験やパソコンスキルが必要でした。

 

その後、職業訓練でパソコンの基礎を学びながら、短時間勤務の仕事にも応募することにしました。数ヶ月後、週4日、1日5時間の仕事が決まりました。月収は約10万円です。

 

以前の生活とは比べものになりません。それでも、マンションをすぐ売らずに済むだけの収入を、自分で得ることができました。

 

しかし、腹立たしさは今も残っているといいます。

 

「ブランクがあるので『事務職は無理』と言われるのはわかる。専業主婦だからって『職歴なし』と言われるのは、本当に怒りしかありません」

 

法務省『財産分与を中心とした離婚に関する実態についての調査・分析業務報告書』によると、離婚時に専業主婦だった女性は14.9%。さらに離婚時の女性の年収は「なし」または「300万円未満」が合計70.0%を占めており、経済的に厳しい状況で離婚を迎えるケースも珍しくありません。

 

また、離婚後の生活困窮を考慮して財産分与で金額が加算されたケースはわずか3.9%にとどまるのが実情です。
長年のキャリアブランクは再就職の大きな障壁となるため、離婚を検討する際は感情的な対立だけでなく、事前の就労準備や具体的な生活資金の確保が重要です。