(※写真はイメージです/PIXTA)
「私の貯金だけ、こんなに減っている」
決定的だったのは、復職してしばらく経ったころです。夫婦のあいだで住宅購入の話が持ち上がりました。タクヤさんが、「頭金、それぞれ500万円くらい出せたらいいよね」と言ったため、ユリさんは久しぶりに自分の預金残高を確認しました。そして、驚きました。出産前には500万円を超えていた預金が、300万円を大きく下回っていたのです。
育休中、生活費の不足分を貯金から補ったこと。復職後も時短勤務で以前ほどの収入を得られなかったこと。子どもの細かな支出を、自分の財布から払ってきたこと。その一方で、貯金や投資に回せる金額は以前より減っていました。ユリさんは、夫にも貯金額を尋ねました。すると、「1,000万円くらいかな」という答えが返ってきました。
出産前、2人の収入や貯蓄額に、そこまで大きな差があったわけではありません。しかし数年後、夫婦の資産には大きな開きが生じていました。
ユリさんは思わず、「これって、本当に半分ずつなのかな」と口にしました。タクヤさんは、「でも俺だって生活費は半分払ってるよ」と答えたそうです。ユリさんはその言葉を聞いて、ようやく自分の違和感の正体がわかったといいます。
「夫は、本当に50%払っているんです。嘘をついているわけでも、生活費を私に押しつけているわけでもない。でも、出産してから私が減らした仕事の時間とか、子どものために使っている時間とか、お金とか。そこは半分じゃなかったんですよね」
「同じ金額を払う」だけでは見えないもの
夫婦で生活費をどのように負担するかに、唯一の正解はありません。結婚当初のユリさん夫妻のように、収入も働き方もほぼ同じであれば、50:50というルールは合理的な方法の一つでしょう。問題は、その前提条件が変わったあとも、同じルールを続けることです。
出産後、ユリさんは育休を取得し、復職後は時短勤務になりました。さらに、保育園の送迎や急な呼び出し、通院などの対応もユリさん側に偏りました。つまり、家庭内のケア労働を多く担うことで、働ける時間そのものが減っていたのです。
2025年4月には、2歳未満の子どもを養育する一定の労働者を対象として、時短勤務中の賃金の10%相当を支給する「育児時短就業給付金」も創設されました。こうした制度が設けられていることからも、育児期には時短勤務などによって収入が減るケースが想定されていることがわかります。
その状態で生活費だけを「半分」に固定すれば、家計への実質的な負担は一方だけ重くなる可能性があります。さらに見落としやすいのが、将来の資産形成です。
収入が減った側は、毎月の生活費を払ったあとに残るお金も少なくなります。そこからさらに子どもの細かな支出を負担していれば、貯金や投資に回せる余裕は小さくなります。一方、もう一方が出産前と同じ働き方と収入を維持できれば、その差は数年間かけて金融資産の差として表れてきます。
ユリさん夫妻はその後、生活費を単純に半額ずつ負担する方法をやめました。それぞれの手取り収入や働き方を考慮して負担割合を決め、子どもに関する費用も原則として共同口座から出すことにしました。住宅の頭金についても、「同額を出す」という案はいったん取り下げたそうです。
夫婦の「平等」を、家計に入れる金額だけで測ることはできません。誰が家事や育児を担っているのか。そのために誰の労働時間や収入が減っているのか。そして、その結果として誰の貯蓄や資産形成が影響を受けているのか。
共働きが一般的になっても、ケア労働の負担は依然として女性側に偏っています。その偏りをそのままにして、お金の負担だけを50:50にすれば、「平等」に見える家計の裏側で別の格差が広がることもあります。
結婚当初には公平だった「50:50」も、家族の状況が変われば公平ではなくなることがあります。家計のルールは、一度決めたら終わりではありません。収入だけでなく、家庭内で誰がどの負担を担っているのかまで含め、状況に応じて見直していく必要があるでしょう。
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