進学の選択肢を広げるための奨学金制度であるが、その返還負担は学生時代や独身時代だけに留まるものではない。一人で返済している間は「個人の固定費」に過ぎなかった債務も、結婚や住宅購入といったライフステージの変化に伴い、世帯全体の選択肢を制限する大きな壁へと姿を変えてしまう。現在32歳のAさんの事例を紹介しよう。
知らなかったんです…〈世帯年収850万円〉「社会人2年目が一番きつかった」32歳会社員夫、同じ境遇の共働き妻との5,500万円のペアローン審査に“落ちた”ワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

奨学金返済「2年目が一番きつい」と嘆く理由

大学卒業後、Aさんは都内の企業に就職した。返済が始まったのは社会人1年目の10月。第一種が月約1万1,000円、第二種が月約1万5,000円、合わせて約2万6,000円が毎月引き落とされる生活がスタートした。

 

「1年目も楽ではなかったんですけど、一番きつかったのは2年目でした」とAさんは振り返る。大きな理由は、社会人2年目から始まる住民税の徴収だ。前年の所得に応じて課税されるため、手取りが目に見えて減った。それにもかかわらず、当然ながら返済額は変わらない。

 

「1年目の感覚で生活していたら、2年目で急に苦しくなって。給料は上がったはずなのに、使えるお金が減りました。あの時期が一番、奨学金の重さを感じた瞬間です」

 

数年が経ち、収入が安定してくると、月2万6,000円の返済は生活のなかに溶け込んでいった。

 

「もう、ないものとして考えるようになりました」

 

固定費として慣れてしまえば、日常的に意識することは減っていく。こうして返済を続けること自体が、日々の当たり前になっていった。

結婚による借金合算…夫婦で600万円の奨学金が残る現実

30歳のとき、Aさんは結婚した。妻とは交際中に奨学金のことを話していた。

 

「隠すことじゃないと思ったので、普通に伝えました。そうしたら妻も借りてるといわれて。やっぱり2年目がきついよね、と共感し合いました。安心しましたね。お互いさまだな、と」

 

しかし、その借入が現実の数字として立ち塞がったのは、住宅購入を具体的に検討しはじめたときだった。

 

夫婦の世帯年収は約850万円。夫婦で金融機関へ赴き、購入を希望する物件(5,500万円)の住宅ローン審査を受けた。結果は謝絶。世帯年収的には問題なかったはずが、ローン審査に落ちたのである。

 

そこで、借入可能額の試算を受けてみると、提示された金額は、自分たちが想定していた額を下回っていたことが判明する。住宅ローンの審査では、金融機関によって基準が異なるものの、奨学金を含めた既存の返済額も返済能力を判断する材料となり、借入可能額に影響する場合がある。Aさんのように夫婦それぞれに返済があれば、その分だけ住宅ローンに回せる余力は小さくなる。

 

「結婚したら、借金も合算されて審査されるんですね。当たり前のことなんですけど、そのときまで実感がなかった。2人合わせてまだ600万円くらい残っている状態で家を買うのは、正直きついなと」

 

マイホームの計画は、いったん保留になった。代わりにAさんが始めたのが、隙間時間を使った副業だ。単発の仕事を受けられるアプリを使い、休日や退勤後に働いている。

 

「月5万円くらいにはなります。気分転換にもなるので苦ではないんですけど、これで第二種を繰上げ返済して、まず利子のあるほうだけでも先に終わらせたいなと。ただ、転職も考えているので、そのタイミングを見計らっている状態です」