「子どもにだけは絶対に迷惑をかけたくない」――そんな強い責任感から、定年後の資金を介護や万が一の備えに偏重させてしまうシニア層は少なくありません。事例を見ていきます。※事例の人物名はすべて仮名です。
もっと老後を楽しんでほしい…退職金2,000万円・70歳父が加入した「月6万円の生命保険」に、45歳娘が“悲しくなった”ワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

長寿化の現実と将来への備え

老後資金を考えるうえで無視できないのが、介護を必要とせず自立して生活できる期間を示す「健康寿命」です。

 

内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、2022年の日本の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳となっています。その一方で、健康寿命との間には大きな開きが存在し、男性で8.48歳、女性で11.64歳の差が生じています。

 

つまり、人生の終盤において男女ともに約8〜11年もの「なんらかの支援や介護を必要とする期間」が発生する可能性が高く、介護保険や認知症保険で備えたいというニーズ自体は合理的であり、その点のニーズを満たすべく、保険会社もさまざまな商品開発を行っています。

 

公的介護保険制度は、40歳以上が被保険者となって介護に備える社会保障制度です。要介護度に応じて「要支援1〜2」「要介護1〜5」の7段階で認定され、自己負担(1〜3割)で各種介護サービスを利用できます。

 

ここで知っておくべきポイントは、公的介護保険の支給限度額は軽度であるほど低くなり、限度額を超えた費用は全額自己負担になるという点です。たとえば最も軽度な「要支援1」は、日常生活の大半は自分で行えるものの、起き上がりや掃除などの家事の一部に見守りや手助けが必要な状態を指します。

 

厚生労働省の統計によると、要支援・要介護認定者のうち約3人に1人がこの「要支援(要支援1・2)」に認定されているのが現状です。手厚い公的給付が受けられる重度介護だけでなく、比較的軽度な段階からサポートを必要とするシニアが数多く存在します。

 

こうした公的介護保険の自己負担分や限度額オーバーを補うため、民間保険では公的介護保険の「要支援1」から保険金や給付金を受け取れる商品なども多数開発されています。

 

しかし、どれほど手厚い商品であっても、当然ながら「要支援・要介護状態」にならなければ保険金を受け取ることはできません。カズナリさんのように、介護を必要としないまま急死してしまった場合、手厚い介護保障は活かされず、受け取れる金額が制限されてしまいます。

 

人生には「長生きして介護が必要になるリスク」と同時に、「急に倒れて死亡するリスク」や「突発的な支出が発生するリスク」が常に同居しています。

 

流動性資産(即座に使えるお金)

 ・普通預金、定期預金など

 ・役割:当面の生活費、急な病気や怪我の医療費、葬儀費用、残された家族の生活準備金

非流動性資産/固定化資産(特定の条件で力を発揮するお金)

 ・一時払い介護保険、不動産など

 ・役割:長期的な介護費用や認知症対策

 

退職金というまとまった資金が入った際、特定の目的に一極集中させてしまうと、万が一の際の流動性が失われます。最低でも数年分の生活費や急な出費に対応できる数千万円規模の現金を手元に残したうえで、余剰資金の範囲で民間保険を活用するというバランス感覚が重要でしょう。

 

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