夫婦2人の年金は月23万円。贅沢をしなければ暮らしていけるものの、43歳の一人娘・恵美さん(仮名)が気になるのは、両親がこの先も元気に暮らせるかどうかです。内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、75~84歳では要介護認定を受けている人が11.6%。実家で目にした78歳父の「ある姿」をきっかけに、恵美さんは老後のお金と健康について考えるようになりました。
お父さん、やばいよ…〈年金月23万円〉で不自由なく暮らす老夫婦だが…43歳一人娘がコンビニで見た〈78歳父の姿〉にゾッとしたワケ ※写真はイメージです/PIXTA

75歳を超えると増えていく「要介護」の割合

もちろん、一度つまずいたからといって、父親がフレイルだと判断することはできません。

 

厚生労働省ではフレイルを、健康な状態と要介護状態の中間に位置する状態と説明しています。身体面だけでなく、心理面や社会面などさまざまな要素が関係し、適切な働きかけによって生活機能の維持・向上が可能な状態でもあります。

 

一方で、父親の78歳という年齢を考えれば、恵美さんが不安を覚えるのも無理はありません。

 

内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、65~74歳で要支援認定を受けている人は1.4%、要介護認定を受けている人は3.0%です。ところが75~84歳では、要支援が6.0%、要介護が11.6%。85歳以上になると、要介護認定を受けている人の割合は44.5%まで上昇します。

 

現在の父親は、食事もでき、車も運転し、夫婦2人で生活できています。だからこそ恵美さんは、「今から少しでも自分で動いてほしい」と思うのです。

夫婦で年金月23万円、「今は暮らせているけれど…」

もう一つ、恵美さんが気にしているのがお金です。

 

両親が受け取る年金は、2人合わせて月23万円ほど。持ち家で住宅ローンはなく、大きなぜいたくをするわけでもありません。

 

「母も『これくらいあれば普通に暮らせるよ』と言っています。今すぐ生活に困っているわけではないんです」

 

実際、2026年度の公的年金の「モデル年金」は月23万7,279円です。これは、平均的な賃金で40年間厚生年金に加入した夫と、その期間を専業主婦として過ごした妻というモデル世帯を想定した金額です。

 

恵美さんの両親の月23万円も、現在の生活を送るうえでは、大きくかけ離れた金額ではありません。

 

それでも恵美さんは安心できないといいます。

 

「今は2人とも大きな病気もないし、家もあるから大丈夫です。でも、どちらかが体を壊したり、介護が必要になったりしたら、また話は違いますよね」

 

コンビニで父がよろける姿を見るまでは、どこか他人事だった「介護」という言葉が、急に現実味を帯びました。

 

厚生労働省「介護給付費等実態統計」の2025年8月審査分を見ると、介護サービス受給者1人当たりの費用額は月21万300円です。これは本人がすべて支払う金額ではなく、保険給付額、公費負担額、利用者負担額を合わせた介護サービス全体の費用です。

 

ただ、介護が必要になれば、サービス利用の自己負担だけではなく、通院や移動、住環境の整備など、元気なときにはなかった支出が発生する可能性もあります。

 

「23万円で暮らせる」という話と、「23万円あれば、この先何があっても安心」という話は別なのです。

教育には十分お金をかけてもらった

恵美さんは、子どものころから両親に十分な教育を受けさせてもらったと感じています。習い事や進学についても、両親は惜しまずお金を出してくれました。一人娘だったこともあり、少々過干渉なところもあったそうです。

 

「学生のころは、何時に帰ってくるのとか、誰と出かけるのとか、結構うるさかったです。東京に出てきたときは、やっと自由になれたと思いました」

 

そんな両親との距離も、40代になったいまでは変わりました。

 

自分で働き、自分のお金で生活するようになってから、両親が自分にかけてくれた時間やお金の大きさもわかるようになったといいます。

 

「だから、もう私に何か残してほしいとは思っていないんです」

 

恵美さんが欲しいのは、相続財産ではありません。

 

「お金は自分で稼げるから。それより2人には、できるだけ長く元気でいてほしいです」

親に望むのは「自分で暮らせる時間」

コンビニでの一件以来、恵美さんは帰省すると、父をなるべく外へ連れ出すようになりました。

 

「ちょっと歩こうよ」と声をかけると、父は面倒そうにすることもあります。そして母にも、ときどき言います。

 

「お父さんに自分でやらせたほうがいいんじゃない?」

 

母が好きな料理や台所仕事までやめる必要はありません。ただ、醤油を取る。自分のお茶を入れる。食器を運ぶ。近所の店まで歩く。そんな小さなことまで妻に任せるのではなく、自分でできることは自分でする。それは母の家事負担を減らすだけでなく、父自身が日常生活のなかで体を動かす機会にもなります。

 

内閣府「令和7年版高齢社会白書」によれば、「健康上の問題で日常生活に制限のない期間」を示す健康寿命は、2022年時点で男性72.57年、女性75.45年です。

 

平均寿命が延びても、自分で生活できる期間が同じだけ延びるとは限りません。

 

高齢の親を持つ子どもにとって、「老後のお金」は年金や貯蓄額だけの問題ではないのでしょう。

 

自分で歩くこと。自分の身の回りのことを自分ですること。そして、夫婦だけで暮らせる状態をできるだけ長く維持すること。それもまた、老後の家計を守るための大切な要素です。

 

「教育には十分お金をかけてもらったので、もう私のために残さなくてもいいんです。使うなら自分たちのために使ってほしい。できれば2人とも、なるべく長く元気でいてほしいですね」

 

恵美さんがいま両親に願うのは、資産を残してくれることではなく、「自分のことを自分でできる時間」を少しでも長く持ってくれることなのです。