(※写真はイメージです/PIXTA)
時間がかかっても、できる一歩を模索する
1.「背景傾聴型」と4.「自己効力感強化型」を組み合わせてみるのはどうでしょうか。「できません」「無理です」と言われたとき、その言葉を正面から論破しようとするのではなく、「そう感じるのには、どんな理由があるのか」と、穏やかに背景を聞きます。
時間なのか、スキルなのか、過去の失敗経験なのか、あるいは単に手順をイメージできないだけなのか、ここを曖昧にしたまま「いや、できるでしょ」と押し返すほど、部下は心の中でますます「やっぱり無理だ」と固まっていきます。
背景が見えてきたら、「全部を完璧にやるのは、たしかに難しいね。じゃあ、まずここだけ一緒にやってみようか」と、達成可能な一歩を切り出します。その一歩をやり切れたら、「あのとき〇〇を工夫していたね。そこがうまくいった理由だと思うよ」と、行動と結果をセットで具体的に承認します。
この小さな成功体験を積み重ねると、「できません」が「条件が整えばできるかも」に変わり、やがて「まずやってみて、無理なら相談しよう」というスタンスに変化していきます。大事な点は、「できないと言うな」と禁止するのではなく、「どうすればできる側に近づけるか」を一緒に考えるパートナーとして関わることです。
上司の役割は、「無理」を叱りつけて消すことではなく、「できるかもしれない」に変換するプロセスを支えることだと考えます。
部下がすぐに「無理」と言う本当の理由
「できません」とは、なんでしょうか。それは「失敗したくない」「傷つきたくない」という不安を、「先回りして封じ込めようとする、ひとつの自己防衛行動」ではないかと思うのです。
多くの上司は、「すぐに無理と言う部下」を見ると、「やる気がない」「根性が足りない」というラベルを貼りたくなります。しかし、その瞬間、私たち自身もまた、「この人は変わらない」という別の意味での「無理だ」を心の中で宣言してはいないでしょうか。
認知行動療法の視点で見ると、「できません」は事実ではなく、その部下の「思い込み(解釈)」にすぎません。「今の自分には荷が重い」「失敗したとき責められそうだ」「前に似たことでうまくいかなかった」といった記憶や不安が混ざり合い、「できません」という一言に凝縮されていることが多いです。
上司側としても「どうせあの部下はいつも無理だと言う」という見方も、同じように偏った認知かもしれません。本当は、「十分な説明を受けていない」「優先順位が不明瞭」「過去にがんばったのに評価されなかった」など、上司が気づいていない要因があるのかもしれません。
つまり「部下の無理」とは、部下だけの問題ではなく、「部下の不安」と「上司の期待」が複雑に絡み合ったメッセージとも捉えられるのではないでしょうか。
今一度、自らに問い直したい。自分は部下の「できません」の裏にある理由を本当に知ろうとしているだろうか。それとも、その一言だけを聞いて、「やる気のない人」という、自分にとって都合のいいラベルを貼り、実は自分の「無理です」を正当化していないだろうか。
吉田 直実
なおみ税理士事務所 代表
元国税職員/一般社団法人日本推進カウンセラー協会認定 認知行動療法士
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