退職後に社会的な繋がりが希薄になりやすいシニア世代。その矛先が、家族への過度な執着を生むことも。遠方に住む親と都市部で暮らす子ども世代――お互いを思いやる気持ちはあるものの、度重なる訪問や価値観の違いによって、関係性に亀裂が入ってしまっては元も子もないでしょう。事例を紹介します。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
「私を採点するのはもうやめてください…」退職金2,300万円が振り込まれた翌週、離婚届を提出された元学年主任の68歳男性。孫の運動会で大興奮も、〈孫への500万円の生前贈与〉を息子夫婦から拒否されたワケ (※画像はイメージです/PIXTA)

妻の代わりに見つけた「新しい生徒」

離婚後、夫Yさんには趣味と呼べるものがありませんでした。教員時代は部活動の顧問と授業準備で休日も埋まっており、地域のコミュニティにも所属していません。友達は一人もいなく、退職後は一週間誰とも口をきかないことも珍しくありません。理容店に行っても、激安のチェーン店で理容師との会話はありません。

 

そこでYさんの関心が向かったのが、東京に住む小学3年生の孫Mくんでした。

 

息子Sさん(39歳)とは少し関係が軟化し、会話はないものの父Yさんが自宅に行っても拒否はしなくなりました。息子の妻Kさん(37歳)は明るい性格で、Yさんの訪問に嫌な顔をしません。孫のMくんに「おじいちゃんから勉強を教わりなさい」というのを、Yさんはとても喜びました。そこで月に2回、孫の勉強の指導で東京まで通うことになりました。

 

名古屋から往復の新幹線代は、月に2回訪ねれば5万円ほどかかりますが、祖父Yさんは「孫のためなら」と蓄えを取り崩すことに。

 

最初の授業で、祖父Yさんは孫Mくんの算数のノートを見て、途中式を書く順番を厳しめに指摘して直しました。2回目の授業では、孫Mくんが通う学校の宿題について「量が少なすぎる」と担任の先生を批判。その次には、書店で買ってきた中学受験向けの問題集を持参し、孫Mくんに解かせはじめました。

 

妻Kさんは当初、義父の熱意を好意的に受け止めていましたが、次第に、指導は孫Mくんを超えて、Kさんへの教育方針への指導にまでおよびました。

 

「タブレットは一日30分までにしなさい」

「習い事はサッカーではなく、そろばんか英会話にしなさい」

「この子の学校は、担任の指導力に問題がある。転校も考えたほうがいい」

「夕食に冷凍食品を並べるのはやめなさい」

 

妻Kさんは、最初は熱心な指導だと思っていたものの、義父YさんのMくんや妻Kさんへの態度は、いつも苛立ちを伴っていることに気づきはじめました。「この人は、生徒に対してイライラしながら教える教師だったんだな」と妻Kさんは悟ります。指導が熱心なのではなく、「自分より劣る人間に苛立ちながら教えてやる」という姿勢を38年続けてきた人間なのだと。

 

妻Kさんは夫のSさんに、「お義父さんの態度が少し教育虐待に近いの」と相談したところ、Sさんは露骨に顔色が変わります。自分の幼少期の記憶が蘇ってきたようです。

 

「あいつは何様なんだ、父親の俺を差し置いて、親気取りをするつもりか」

 

普段は温厚な夫の豹変に、妻Kさんは夫の生育環境の歪みをまざまざと思い知らされました。「あんな育てられ方をしたら、大人になってもフラッシュバックするだろうな」と。

 

それからも月2回の祖父Yさんの訪問は続き、どんどん「指導」は過激に。「Mに運動が足りない」といっては近所を走らせてみたり、算数の問題が解けないといっては大声で叱ってみたり。教育虐待そのものに変容していきました。

 

夫のSさんは我慢ならず「孫を虐待して気持ちよくなっているなら、もう来るなよ」とYさんにいうと、Yさんは「お前らが子育てをちゃんとしないから俺がやるしかないんだろ!」と返す始末。一触即発の状態を妻Kさんがなんとか鎮めました。