内閣府の『令和7年版高齢社会白書(高齢者の経済生活に関する調査)』によると、高齢者が今後の生活で経済的に不安に感じる要素として、「自力で生活できなくなり、転居や有料老人ホームへの入居費用がかかること」を挙げる人は43.1%に上り、さらに「自分や家族の医療・介護の費用がかかりすぎること」を懸念する人も36.6%存在します。いくら手元に潤沢な老後資金を用意できていたとしても、先行き不透明な老後の漠然とした恐怖は、心を静かに蝕むようです。事例を見ていきましょう。※事例の人物名はすべて仮名です。
貯金があっても悩みは尽きません…「老後資金8,000万円」の75歳女性、孫と過ごす楽しいセカンドライフのはずが、夜になると「不安で眠れない」理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「老後資金8,000万円」でも不安が消えない、3つの理由

一見潤沢に見える老後資金を持ちながら、なぜカズミさんはここまで精神的に追い詰められているのでしょうか。その裏には、現代の高齢者夫婦を取り巻く切実なリスクがありました。

 

長寿化と「介護・医療費」の不透明感

夫婦は揃って今年、後期高齢者になりました。人生100年時代といわれるいま、あと25年以上生きる可能性があります。もし夫婦そろって重度の介護が必要になり、手厚いサービスが整った老人ホームへ入居することになれば、一時金や月々の利用料で数千万円単位のお金があっという間に消えていきます。「いつ、いくら必要になるかわからない」という不透明感が、不安の根源になっていました。

 

インフレによる実質資産の目減り

近年続く物価の上昇もカズミさんを焦らせます。預金口座に8,000万円を置いたままでも、モノの値段が上がり続ければお金の実質的な価値は目減りしていきます。「いまは十分に見えるお金も、10年後、20年後には価値が半分になっているかもしれない」という恐怖が頭から離れません。

 

現役時代の「貯める習慣」から「使う段階」への意識転換ができない

数十年間にわたり、生活を切り詰めて資産を築いてきたカズミさんにとって、「通帳の数字が減ること」そのものが強いストレスになっていました。たとえ年間100万円取り崩したとしても80年持つ計算ですが、一度染みついた「減る恐怖」は拭い去れなかったのです。

 

楽観的な夫とのギャップと、抱え込む孤独

さらにカズミさんを孤独にしているのが、夫であるゴロウさんとの温度差でした。

 

「貯金は十分あるんだから、そんなに細かいことを気にするな。死ぬときに一番お金持ちになっていてどうするんだ」

 

不安を訴えるカズミさんに対し、ゴロウさんはいつも笑い飛ばすだけでした。家計の管理や日々の買い物、将来の介護施設のリサーチなどを一切仕切っているのはカズミさんだからこそ、現実的なコストの重みがゴロウさんには伝わっていません。

 

「孫のために使いたい気持ちはある。でも、ここで際限なく使い込んで、将来自分たちの介護費用が足りなくなって子どもたちに迷惑をかけたら……」

 

誰にも相談できず、一人で家計防衛の重圧を背負い続けた結果、カズミさんは老後を思い切り楽しむことができなくなっていたのです。

資産取崩し恐怖症

資産形成期(現役時代)から資産活用期(老後)へのシフトがうまくいかない高齢者は決して少なくありません。生命保険文化センターの『リスクに備えるための生活設計』の調査でも、老後生活に対する不透明感の第一位には常に「医療・介護の費用」が挙げられており、金額の多寡にかかわらず「将来の未知の支出」に対する恐怖が人々を不安にさせることがわかっています。

 

資産があっても不安が尽きない状態を脱するにはどうすればよいのでしょうか。

 

資産を「使うお金」と「守るお金」に明確に色分けする

8,000万円をひとくくりにして管理するのではなく、目的ごとに資金を分離することが効果的です。

 

日常の生活費・予備費(数年分):年金で不足する分を補填する口座

将来の医療・介護専用資金(例:夫婦で2,000万〜3,000万円):絶対につけない口座

自由に使っていい資金・孫への援助(例:1,000万円):年間予算を決めて使い切っていい口座

 

このように「介護資金はしっかり確保してある」という担保を作ることで、孫への援助や趣味にお金を使う際の罪悪感や不安を大幅に軽減できます。

 

「年間取り崩し上限額」ルールを決める

「残高が減ること」に怯える場合、明確なルールを設けるのが有効です。たとえば「年間で取り崩していいのは資産の2〜3%(8,000万円なら年間160万〜240万円まで)」と設定し、その範囲内であれば「計画どおりの正しい取り崩しである」と自分自身を肯定してあげることが大切です。

 

夫婦で「老後の終わり方」を具体的に話し合う

妻一人で家計の重圧を抱え込まず、FPなどの第三者を交えて夫婦でライフプランシミュレーションを行うことも重要です。シミュレーションをもとに「〇歳までにこれくらい使っても破綻しない」という数字を客観視することで、楽観的な夫にも現実感が伝わり、夫婦で納得してセカンドライフを楽しむ精神的ゆとりが生まれます。

 

お金は人生を豊かにするためのツールです。「貯めること」から「後悔なく使い切ること」へ意識を緩やかに切り替えることこそが、老後の本当の安らぎを手にする鍵となるでしょう。

 

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