内閣府の『令和7年版高齢社会白書(高齢者の経済生活に関する調査)』によると、高齢者が今後の生活で経済的に不安に感じる要素として、「自力で生活できなくなり、転居や有料老人ホームへの入居費用がかかること」を挙げる人は43.1%に上り、さらに「自分や家族の医療・介護の費用がかかりすぎること」を懸念する人も36.6%存在します。いくら手元に潤沢な老後資金を用意できていたとしても、先行き不透明な老後の漠然とした恐怖は、心を静かに蝕むようです。事例を見ていきましょう。※事例の人物名はすべて仮名です。
貯金があっても悩みは尽きません…「老後資金8,000万円」の75歳女性、孫と過ごす楽しいセカンドライフのはずが、夜になると「不安で眠れない」理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

孫と過ごす昼、不安が押し寄せる孤独な夜

長年勤め上げた大手企業を無事に定年退職し、退職金やコツコツ蓄えてきた貯蓄を合わせ、夫婦で約8,000万円の老後資金を準備したカズミさん(75歳)と夫のゴロウさん(77歳)。

 

郊外の持ち家で暮らし、夫婦の年金収入は合計で月約28万円。日中は近所に住む孫たちが遊びに訪れ、かけがえのない時間を過ごせる穏やかで幸せな日々。周囲からは「悠々自適なセカンドライフ」「老後安泰で羨ましい」と羨む眼差しを向けられています。

 

しかし、カズミさんには人にいいづらい悩み事がありました。夜、布団に入ると猛烈な不安が襲いかかり、毎晩のようにじっと天井を見つめて眠れなくなってしまうのです。

 

カズミさん夫婦の楽しみは、小学生と中学生になった4人の孫の成長を見守ることです。週末になれば孫を連れて外食に出かけ、誕生日や入学祝いには欲しいものを買い与え、希望する習い事や塾の費用もさりげなく援助してきました。

 

「おばあちゃん、ありがとう!」

 

孫たちの眩しい笑顔を見る瞬間は、カズミさんにとってなによりの生きがいです。夫のゴロウさんも「老い先短い人生、孫や子どもたちのために使えるお金があるのは幸せなことだ」と満足気で、孫のリクエストには二つ返事でお財布の紐を緩めます。

 

しかし、孫たちが帰り、ゴロウさんがいびきをかいて眠りについた深夜、カズミさんの「一人だけの時間」が始まります。家計簿と郵便通帳、そして電卓を取り出したカズミさんは、暗いリビングで静かに計算を始めます。

 

「孫のお祝いやお食事代で20万円……。今月も預金を取り崩してしまった」

 

老後の8,000万円という資産をカズミさんは「多い」とは思えないのです。