老後資金をいくら準備していても、成人した子との「お金の距離感」を誤ると、家族関係の亀裂につながります。親の資産をアテにする子と自立を促す親との摩擦――ある親子の事例から、老親が抱える親子関係の難しさや資産のあり方について考えます。
「もう来るなと言っただろう!」〈年金月20万円〉72歳父、「絶縁宣言」の44歳長男に「二度目の絶縁」を言い渡したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

「二度と来るな」の理由

ところが、半年後。哲也さんから突然、連絡が入りました。

 

「家を買いたい。頭金を出してほしい」

 

再婚が決まり、マンションを買おうという話になったといいます。博さんは断りました。理由は単純でした。72歳の自分が、これから何年生きるかわからない。医療費や介護費も必要になるかもしれません。

 

「3,000万円近く貯金があるんだろう。お金を抱えて死ぬ気か?」

 

博さんは預貯金額を伝えたことを後悔しつつも、支援を拒絶。「お金のことばかり、二度と顔を見せるな!」と二度目の絶縁宣言をしたのです。

 

しかし、その半年後くらいに、また哲也さんが実家を訪ねてきました。玄関先で放たれた言葉は、博さんが予想していたものとは違いました。

 

「親父、相続のこと、ちゃんと考えてる?」

 

博さんは答えませんでした。哲也さんは続けます。

 

「俺しか子どもいないんだから、家も預金も最終的には俺のものだろ」

 

その言葉を聞いた瞬間、博さんは怒りを抑えられなくなり、「俺が生きているうちから、お前の財産みたいに言うな」と言い返します。

 

「どうせ最後は俺が面倒を見るんだろ」

「お前に面倒見てもらおうなんて思っていない」

 

そこで口論になりました。

 

「もう本当に来るな、今度こそ本当に来るな!」

 

三度の絶縁を通し、何度か金銭的に支援したことを悔やんだという博さん。

 

「金があるから駄目だ。また頼ってくるだろう」

 

いつまで生きられるかわからない。だから安心のためにと、これまで質素倹約を心掛け、預貯金は使わないようにしてきました。しかしそのことが、哲也さんとの関係においては逆効果になっていたかもしれません。

 

「子どもだから助ける、助けて当然とどこかで思っていた。しかし、ちゃんと線引きすべきでした」

 

その後、博さんは自宅を売却し、施設に入ることを検討しています。終活に取り掛かったのです。預貯金も老後の安心ではなく、楽しむために使おうと考えているといいます。

 

金融広報中央委員会の『家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](2025年)』によれば、遺産について「子どもはいるが、自分の人生を楽しみたいので、財産を使い切りたい」と考える70代の単身世帯は22.7%に上ります。

 

一方で「条件に関わらず子どもに財産を残したい」(19.3%)とする意見も根強く存在します。親子の線引きに唯一の正解はなく、博さんの終活は、一つの切実な選択といえそうです。